http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090629/1246244161に関係して。
佐藤亜紀「エロってどんなものかしら」http://tamanoir.air-nifty.com/articles/2009/07/post-5b68.html
曰く、
少し突っ込みを入れると、「下」は「認識可能、表現可能なもの」の彼方にあるもの、形而上学的存在者として欲望されるということになるのではないか。言葉を換えれば、露呈された表層は(それが存在するかしないかは別として)常に(隠蔽されているとされる)〈深層〉を喚起してしまう。
性の非対称性? 滑稽な話だ。男女を問わぬ交接および交接を伴わない性行為自体には対称性も非対称性も、「上」が口にするような関係性はどこにもない。そもそも「上」でいうところの意味さえなく(呼吸や消化に本来何の意味もないように)、故にエロくもない——エロはあくまで「上」のものであり、そしてそこには例の「世間様の裏のご意向」が鎮座ましましている。非対称性が認識されるのは「上」においてであり、特定の趣向が殊更に好まれるのも「上」においてであり、「プレイ」が成立するのも「上」においてであり、単なる性の行為が美徳になったり悪徳になったり侵犯になったり解放になったりするのも「上」においてであり、そしてその全ては、サドが悪徳と美徳をただ交換するのに使ったレトリックを流用するなら、全くの「偏見」——「世間様」の支配を「下」に及ぼすための装置に過ぎない。そうした装置を介して、「下」は「世間様」の秩序に組み込まれ、そこで漸く認識可能、表現可能なものになる。性表現、という奴に私が信を置かない理由はそこにある。そそるものであればあるほど「偏見」という装置の動作をただ繰り返しているだけだからであり、どれほどおどろおどろしかろうと「下」の渾沌に目鼻を穿ち、死んだものとして提示するだけだからだ。故に、どう性を表現しようと、その根本的な無意味自体は表現から逃れ、我々が「世間様」から解き放たれた剥き出しの性を目にすることもない。仮に「下」をそのまま掴み出した表現があったとしたら、それは既に性表現ではないだろう。
こういう議論を読んでいて思うのは、四方田犬彦氏の隠れた名著『映像要理』は今でも読まれてしかるべきだということだ。
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これはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090613/1244856192に関連するか。ところで、「例の老文人」とは生田耕作先生のこと? また、〈猥褻上等!〉という啖呵は、「フランツ・フォン・バイロスの画集」の裁判と(多分)同時期だった筈の大島渚『愛のコリーダ』裁判*1を巡って、先行の〈「四畳半襖の下張り」裁判〉、〈サド裁判〉、さらには〈チャタレー裁判〉への批判として、言われていたような気がする。当時は、若気の至りで、〈猥褻上等!〉だったが、勿論現在はそんな単純ではない。
だから例の老文人は、文句なしに、正しい。性表現は表現としての是非をその芸術性によって評価されるしかない。さもなければその政治性によって個別利害に照らして評価されるしかない。それ以外の評価はどれも、どのような位相によってどれだけ「世間様」に従順か、でしかない(抜ける、とは即ちそういうことだ)。虚しいことではいずれも同じだが。猥褻何が悪い、による性表現の解放は、結局商業による性差別構造にただ乗りしたポルノグラフィの垂れ流しにしか繋がらなかった。とはつまり「世間様」の支配が強化されただけだ。
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猥褻の研究―「愛のコリーダ」起訴記念出版 (1977年) (三一新書)
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ほかに、「ポルノ」を巡っては、
http://d.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20090702/1246468957
http://diary.lylyco.com/2009/07/post_331.html
が興味深かったので、記しておく。
「エロってどんなものかしら」――岡崎京子『恋とはどういうものかしら?』*2へのアリュージョン?
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*1:映画そのものではなく、スティル写真を掲載したシナリオ本が〈猥褻〉として弾圧された。
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061204/1165209805