『ワイヤー上の男』(メモ)

http://d.hatena.ne.jp/zoot32/20090614#p1


James Marshのドキュメンタリー映画Man on Wire*1について。
WTCは2001年9月11日に死亡してしまったのだが、この映画はWTCが生まれてくる過程が見られることにおいても貴重なフィルムであるといえるだろう。
ポール・オースターフィリップ・プティの著書On the High Wireの序文を書いていることを思い出した(『空腹の技法』*2所収)。WTCに関わるところを少し引用してみる;


ニューヨークはパリに較べて寛大な都市であり、ニューヨークっ子たちはフィリップの功績に熱狂的な反応を見せた。だがフィリップは、ノートルダムでの冒険後と同じく、自分のヴィジョンに忠実だった。手に入れた名声を使って一儲けしようなどとはしなかった。アメリカがいくらでも差し出す安手の誘惑もすべて拒んだ。彼に関する本は一冊も出版されなかったし、映画も一本も作られなかった。フィリップを商品として売り出すべく捕まえた山師もいなかった。世界貿易センターの一件で彼が金持ちにならなかったことは、その綱渡り自体と同じくらい特筆すべきことである。その証拠を、ニューヨークにいる人々は自分の目で確認することができた――フィリップは相変わらず、大道芸によって生計を立てつづけたのだ。(pp.320-321)
また、

(前略)綱渡りは、死の芸術ではなく、生の芸術なのだ。極限まで生き抜かれた、生の芸術なのだ。すなわち、死から身を隠すことなく、死とまっすぐ対峙する生。ロープに足を載せるたび、フィリップはその生を自分のものとし、その爽快な直接性と、その悦びを存分に味わって生きるのだ。(p.327)
空腹の技法 (新潮文庫)

空腹の技法 (新潮文庫)