「あなたは英語をよく話しますね」

東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)

村上春樹「ハナレイ・ベイ」(in『東京奇譚集』)の中で、


「あなたは英語をよく話しますね」とその担当の警官は書類を整理しながら言った。サカタという名前の日系の警官だった。
「若いころ、アメリカにしばらく住んでいました」とサチは言った。
「なるほど」と警官は言った。それから息子の荷物を渡してくれた。(後略)(p.57)
という箇所が気になった。
「あなたは英語をよく話しますね」という「サカタという名前の日系の警官」の科白は日本語としてちょっと変だと思う。しかし、これを英訳して、You speak English well, don’t you?とすれば、変ではない。というか、「あなたは英語をよく話しますね」はYou speak English well, don’t you?の直訳じゃないか。もしあなたが英語の教師で、生徒がYou speak English well, don’t you?をこういうふうに訳したら、多分英語がお上手ですねと訂正するのではないか。
この短編では、英語によるコミュニケーションと日本語によるコミュニケーションが出てくる。どちらも表記上の差異はない。さて、私はこの「サカタという名前の日系の警官」がここで日本語を話したのか、それとも英語を話したのかということが気になった。「あなたは英語をよく話しますね」はたしかに日本語としては不自然であるが、英語話者の日本語として考えれば不自然ではないということになる。