「副作用」など

承前*1

ロザンヌ・バーの差別発言騒動を巡る余波。猿渡由紀さん*2の報告3本。


「1本のツイートでキャリアを失ったスターの愚行と、トップ番組を容赦なく切ったテレビ局の英断」https://news.yahoo.co.jp/byline/saruwatariyuki/20180530-00085827/


これは事件の概要。


「主演スターの人種差別ツイートで300人が失業するテレビ界の非情な現実」https://news.yahoo.co.jp/byline/saruwatariyuki/20180601-00085917/


「催眠薬」ならぬレイシズムの「副作用」は『ロザンヌ』スタッフの大量失業という話。


「大スターも油断は禁物。主役を消しても立派に続く、アメリカのテレビドラマ」https://news.yahoo.co.jp/byline/saruwatariyuki/20180606-00086110/


ロザンヌ・バー抜きでドラマ『ロザンヌ』を続けることはできるかという問題。実は主役級の役者が何かしらの事情で抜けてしまってもドラマはそのまま続いてしまったという例はけっこうある。例えば、『チャーリーズ・エンジェル』といえばファラ・フォーセット*3だが、実は『チャーリーズ・エンジェル』で彼女がレギュラー出演しているのは最初のシーズンだけ。また、『ビバリーヒルズ青春白書』 の第4シーズンの最後に、主役だったシャナン・ドハティは「転校」ということでドラマを追放されてしまったとか。

ビバリーヒルズ青春白書 シーズン4 <トク選BOX> [DVD]

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「身体と悪」(河合隼雄)

子どもと悪 (今ここに生きる子ども)

子どもと悪 (今ここに生きる子ども)

河合隼雄『子どもと悪』*1から抜書き。


人間にとって、「身体」というのは非常に不思議なものである。それは自分のものであるが、自分のままにならない部分がたくさんある。そして、それは人間の喜怒哀楽に密接に関連している。何よりも大切なことは、それに「死」が訪れることを人間は知っており、それに対しては絶対に抗し難い。
避けられない死に対して、人間はその長い歴史のなかで、たましいの永続性、美や真理の永続性、あるいは「家」の永続性などをかかげて対抗してきたが、やはり市が恐ろしいことには変わりはなく、それと直接的に結びついている「身体」というのが、時におぞましく思われたり、否定したくなったりして、どこかで「悪」と結びついてくる傾向がある。
ここで、精神と身体という区分を明確にし、精神を善と考えると、身体は悪ということになる。特に、身体は食欲、性欲など精神によってコントロールするのが難しいことに関係するので、余計に悪者扱いされる。それに子どもの体験としては、大小便、唾、鼻汁、など自分の体から出てきたものが「汚い」として忌避されるのは*2、印象的なことであるに違いない。それを少し推しすすめると、それらを排出してくる体そのものも「汚い」、あるいは「悪」に結びつくことになる。それで何とか自分の身体を守るために、大小便のコントロールとか、身体を清潔に保つことなどが、子どもにとって大切な仕事とされるようになる。もちろん、子供は成長に従って、自分の育つ文化的パターンを身につけていくのだが、心の底の方では、自分の身体に関する不可解でアンビバレントな感情を持ち続けていくと思われる。(pp.104-105)

寺島実仁訳

かつて梁文道氏はハイデガーの『存在と時間』の英訳は2種類しかないのに日本語訳は5種類もあると吃驚していた(「中大変英大――《令大学頭痛的中文》」『読者』*1、p.249)*2。私が読んだのは岩波文庫の桑木務訳だが、木田元先生の「ハイデガーを読む」 ( 『木田元の最終講義 反哲学としての哲学』*3、pp.9-61)によると、既に昭和14年(1939年)に寺島実仁という人の『存在と時間』訳本が刊行されている(p.22)。どうやら最初の訳本らしい。今まで知らなかった。勿論、寺島実仁という人についても知らなかったのだが、ちょこっとネット検索してわかったことは、「実仁」はサネヒトではなくジツジンと念むらしいこと*4。マックス・シェーラーの『哲学的世界観』の翻訳もしていること*5。「財団法人日独文化協会」の会員であったこと*6

存在と時間 下 (岩波文庫 青 651-3)

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「作品の由来は全く知りませんでした」

承前*1

石戸諭*2「東大の絵画廃棄「理由が不明」の不気味さ」http://blogos.com/article/301753/


東京大学安田講堂地下の食堂にあった宇佐美圭司「きずな」が破棄(破壊)された事件を巡って。当の東大生協関係者の話と(専門家として)東京国立近代美術館企画課長の蔵屋美香さんの話を中心として。


東大生協の担当者はこう語る。

「生協の所有物ということで、私たちが決めていいものだと思いました。特にプレートなども設置されておらず、どのような作品かは知りませんでした。特段の議論もなく改修した後には置けないということで処分が決定しました」

「作品の由来は全く知りませんでした。重要な作品であるという認識の共有が欠如していました。壁に飾っている絵という認識でした。絵を見ても特に処分はまずいという議論もなく、廃棄は決定しました。そのままスルーしてしまいました」


そして、宇佐美の代表作は生協が依頼した業者が「カッターのようなもので」切り刻み、撤去と廃棄処分は完了した。作品は歴史から消えていったのだ。

どうして処分したのかという問いに対して、東大生協が繰り返し強調したのが「生協の所有物だから、自分たちで廃棄を決定してもいいと思った」「わからなかった、思い至らなかった」という2点だった。

美術品には公共的な価値、歴史的な価値がある。所有者が所有物だからということを理由に勝手に処分していいのか。そう聞いても「そのような視点は思い至らなかった」「わからなかったんです」「考えが及ばなかった」を繰り返す。

わからないけど、調べなかった。自分たちのものだから、自分たちで処分していい。

何を聞いても、この2点しか繰り返さない。廃棄が決まる議論の過程や詳細は語られない、というより語るほどの内容もなく、ただただ価値とは関係ないところで結論だけが決まっていたという印象が残った。


生協の対応の特徴は、不祥事対応にありがちな傲慢な反論や開き直りとは対照的に、とにもかくにも素直に認めて謝るという姿勢だった。

だからこそ、疑問も残る。わからなかったのではなく、わかろうとしなかったのではないか。結果、わからないものは捨ててもいいになってしまったのではないか。

思考停止――。録音したテープを聴いていると、東大生協の担当者はこの言葉に間髪入れずに反応していた。

「思考停止? はい」、と。

蔵屋美香さんによれば、このような問題はこれまでにもあったし、今後増える可能性がある;

東大生協の対応は決して珍しいものではないです。建て替えや建て壊しで人知れず無くなっていった美術作品は結構な数があるはずです」

例えば、と蔵屋さんが例にあげたのは岡本太郎だ。丸の内にあった旧東京都庁には岡本太郎の陶板レリーフが飾られていた。しかし、新宿移転の際、廃棄が決まり、旧都庁とともに取り壊された。岡本太郎記念館ホームページには、「1991年5月 56年制作の陶板レリーフの保存運動がおこるが、9月に取り壊される」と書かれている。

蔵屋さんは続ける。日本の美術史には公共空間への美術作品設置ブームが何度かある。古くは1920年代〜30年代の壁画ブーム、近年では1980年代〜90年代の立体作品を中心としたパブリックアートブームがそれにあたる。

要するにお金に比較的余裕がある時期に企業や行政が有名な美術家に壁画など作品を依頼するということだ。

これから、バブル期に依頼され、設置から30年〜40年を迎える作品がどんどん出てくる。設置された建物は老朽化しており、作品を保存するには労力がかかる。

「建て替えが捨てどきだと判断する企業や自治体があっても不思議ではないですよね? 今回は美術研究者が多数いる東大の食堂に飾られていて、しかも宇佐美さんの代表作だからニュースになったと思うんです。でも、ニュースにならずにひっそりと捨てられる作品は今も昔も決して少なくない」

いちばんの問題の所在;

「一般論でいえば、議論を尽くし、ほんとうに避けがたい理由が立てば、廃棄するという決断を下す場合があるかも知れないとも思います。そもそも全ての作品を保存できないことは美術館の人間としてよくわかっています。問題は結論に至る理由です」

「明確に廃棄する理由があれば説明すればいい。『わからないから捨てた』以上のものがないことが問題なのです」


冒頭の一文をもう一度引用しよう。「絵画とは歴史である。そして歴史とはさまざまな方法であろう」。この本のなかで宇佐美はセザンヌレオナルド・ダ・ヴィンチらを「歴史上の友人たち」と呼ぶ*3

「廃棄の理由が『現代絵画が嫌いである』『食堂にふさわしくない』ならまだ理由があるから理解の範囲内です。歴史を何より重視した画家の知性が詰まった作品が、明確な理由が廃棄だからという理由だけで誰も止めずに捨てられていく……。思考が止まっているような気がするんです」

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180501/1525139683 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180502/1525224770 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180509/1525807617

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160122/1453481204 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160127/1453866712 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160325/1458875216 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160409/1460163099 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160415/1460648516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160526/1464228316 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160603/1464959516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161105/1478309427 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161211/1481482837 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170103/1483467085 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170516/1494962934 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171108/1510149623 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171111/1510404872 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171113/1510590081 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171222/1513915420 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180206/1517935255 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180226/1519612385 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180301/1519907714 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180303/1520088990 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180417/1523990276 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180502/1525264751 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180523/1527094826

*3:宇佐美圭司『20世紀美術』からの引用。

20世紀美術 (岩波新書)

20世紀美術 (岩波新書)

Abused by Manbabies

Star Wars actress Kelly Marie Tran deletes Instagram posts after abuse” https://www.bbc.com/news/world-asia-44379473


スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でレジスタンス闘士ローズ・ティコを演じたヴェトナム系の女優ケリー・マリー・トラン*1は、監督のライアン・ジョンソンが「餓鬼ども(manbabies)」*2と呼ぶ一部の『スター・ウォーズ』ファンから差別的なバッシングを受けている。このショックで、トランは自らのインスタグラムの全投稿を削除してしまっている。


On social media a few unhealthy people can cast a big shadow on the wall, but over the past 4 years I’ve met lots of real fellow SW fans. We like & dislike stuff but we do it with humor, love & respect. We’re the VAST majority, we’re having fun & doing just fine. https://t.co/yhcShg5vdJ

Rian Johnson (@rianjohnson) June 5, 2018
https://twitter.com/rianjohnson/status/1004034384649904128

なお、昨年には、レイを演じたデイジー・リドリーも自らのインスタグラムを閉じている*3See also


浅田奈穂「スター・ウォーズ出演のアジア系女性、インスタ全投稿を削除 差別コメント相次ぎ」https://www.huffingtonpost.jp/2018/06/08/starwars-kellymarie_a_23453907/

世界でいちばん高い

Sandipan Dutta “The world’s highest post office” http://www.bbc.com/travel/story/20180606-the-worlds-highest-post-office


印度北部、ヒマラヤ山脈の中のスピティ渓谷*1沿いのヒッキム村*2にある「ヒッキム郵便局」。海抜4440m。世界でいちばん高いところにある郵便局とされる。この辺りは、携帯電話も殆ど圏外で、インターネットも届いていない。


Baldev Chauhan “'World's highest polling centre' in India readies for vote” https://www.bbc.com/news/world-asia-india-20177075


ヒッキム村には、世界でも最も高いところにある選挙投票所もあるのだった。郵便局よりも約100m高いところにある。