持続する「一瞬」?

『毎日』の記事;


新潟市美術館 展示作品ジメジメ、カビ発生?夜間空調せず
7月31日15時1分配信 毎日新聞

 自然豊かな新潟の魅力を発信する「水と土の芸術祭」の一環で、新潟市美術館(同市中央区、北川フラム館長)に展示中の土製作品にカビが発生している可能性が高いことが分かった。美術専門家は「水分を含んだ作品を美術館内に持ち込むのは非常識」と指摘。館内で制作された巨大な作品だけに運び出すのも難しく、新潟市などでつくる実行委員会と作家らは31日、対応を協議している。【黒田阿紗子、岸桂子】

 芸術祭は今月18日から開催。12月27日までの期間中、13カ国のアーティストが制作した計71作品が市内各地に展示されている。

 問題になっているのは、左官職人でもある久住有生(なおき)さんの作品「土の一瞬」。わらを混ぜた土を塗った高さ2メートル、幅9メートル、厚さ60センチの土壁状だ。今月16日に完成し、乾燥して土がひび割れていく過程も見どころという。

 22日に同館職員が表面に白いカビのようなものを発見。翌日には最大で直径9ミリのものが20カ所以上確認された。職員が取り除いたが、その後も湿った部分や隣室の他の土製作品でも見つかった。展示室は、日中は湿度55%に保たれている。しかし、空調を止めていた夜間は、梅雨の影響もあって約80%まで上がっていたという。

 作品設置に立ち会った職員は「水気のある作品なのでカビが生える可能性は予測できた。だが、夜間は空調を調節する要員を確保できず、外気を取り入れて換気する方法を取った」と説明。23日以降は24時間体制で空調を稼働させている。

 同館はパブロ・ピカソなどの作品も展示。実行委は来館者が増える週末を前に、問題の作品を撤去するか、カバーで覆うなどの対応策を話し合う。

 ◇常識で考えられぬ

 元府中市美術館長の本江邦夫・多摩美術大教授の話 作品を直接見ていないが、水気のある作品を展示すること自体、常識では考えられない。特に土はカビや雑菌が発生する可能性があり危険。他の作品に雑菌が付いて腐敗につながりかねない。可能な限り現状保存するのが美術館の使命で、その根幹を揺るがす問題だ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090731-00000014-maip-soci

記事では黴が生えた問題、夜間に空調をしていなかった問題、「水気のある作品を展示すること自体」が問題云々だけど、写真を見た限りでは面白いコンセプトの作品(インスタレーション)だと思う。「土の一瞬」というタイトル。展示終了までの数か月間の無数の「一瞬」、或いはそれら無数の「一瞬」の積分が作品だということになる。だとすれば、「乾燥して土がひび割れていく過程」も表面に黴が生えることも、無数の「一瞬」のひとつだということになる。雨は避けられるけれど外気に完全に晒されたようなスペースに展示した方が面白いような気もする。この記事を読んで、1980年代に草月会館のギャラリーに土を運び込んで、さらに植物の種を撒いて、発芽し・成長していく過程を展示するというインスタレーションを行った韓国人アーティストがいたことを思い出したのだが、名前は思い出せない。


http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090801/1249094892に関連して、『スポニチ』の記事;


誰だ持ち込んだ!旅客機内にワニ!

 アラブ首長国連邦アブダビからエジプトのカイロに向かっていたエジプト航空の機内で、乗客の手荷物に入っていたとみられる体長約30センチの赤ちゃんワニが逃げだし、乗客がパニック状態に陥った。

 乗務員が取り押さえ、騒ぎは収束。ワニはカイロの動物園に引き渡された。

 違法な持ち込みだったからか、「私が飼い主」と自己申告した乗客は誰もいなかったという。 (AP)

[ 2009年08月02日 12:56 ]
http://www.sponichi.co.jp/society/flash/KFullFlash20090802045.html

「桜ノ宮龍王宮」

http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090727/1248634457に関連して。

『民団新聞』の記事;


退去迫られる在日祈りの場 「桜ノ宮龍王宮」 2009-07-29


「貴重な文化遺産」惜しむ声も

 【大阪】民間のシャーマニズム信仰に根ざした在日の祈りの場「桜ノ宮龍王宮」が「不法占拠」を理由に行政から立ち退きを迫られている。研究者からは「貴重な文化遺産をなんらかの形で残せないか」という声が上がっている。

 龍王宮のある敷地は、JR環状線桜宮駅の高架下から大川の河川敷に広がっている。高架下の路地を入ると廃品回収の買取場や事務所、炊飯場、寄宿舎が木々に囲まれ軒を連ねている。狭い路地をさらに進むと、大川の水辺に面していちばん奥に建っている。

 いまでも鶴橋や奈良県生駒からポサル(菩薩)を呼び、月数回はクッ(巫祭)が行われる。恨を祓う一連の儀式は数日にわたって続くことも珍しくない。郷土文化研究者で生駒・宝塚の「韓寺」事情に詳しい?奎通さんは「日本社会での複雑な立場や、ままにならぬ生活上の不安が在日韓国・朝鮮人を現世利益を願うクッに走らせてきた」と分析している。

 行政からの退去命令が出たのは家屋を管理してきた在日同胞が亡くなって間もない今年1月。低所得層地域のまちづくりに関する実践的な研究が専門の全泓奎さん(大阪市立大学都市研究プラザ・准教授)は、「龍王宮には済州道につながる在日同胞の文化、歴史、宗教があり、生活があった」と惜しむ。「行政と折衝して、済州島を思わせる石垣や韓国風の開放的な東屋をつくるとかいろんな方面からの知恵と協力が求められている」といった声も上がっている。

(2009.7.29 民団新聞)
http://www.mindan.org/shinbun/news_view.php?page=12&category=2&newsid=11578

ところで、私は韓国シャーマニズムの基本的コスモロジーとかについても殆ど知らないのであった。

景など

承前*1

「借景小説」というタームのご教示ありがとうございました。
「借景小説」でGoogleをかけると、例えば


 呉智英はかつて司馬遼太郎歴史小説を評して、戦国や江戸や明治が舞台だけど登場人物はほとんど近代的な思想をもつ現代人で、煎じ詰めればこれらは大変よくできた借景小説なのだと総括した。私は司馬作品を一冊も読んだことがないので、この評の妥当性は知らないが、歴史小説ならぬ時代小説と称するジャンルはおおむね借景小説と断じてもまちがいないように思う。

 なお、誤解のなきようつけたしておくと、怪異妖怪のたぐいが出てくる小説が前近代的なのだというわけではない。登場人物がそれらをとりあつかう態度や作法や価値観――呉の物言いを借りれば「思想」の構造こそが、近代と前近代をわけるものさしだ。
http://d.hatena.ne.jp/JD-1976/20090519/p1

というのが引っかかったりするが、さらに遡ると、菊地昌典に行き着くようだ。ところで、「借景」という言葉を思い切りベタに解釈してみると、小説の良し悪しは「景」の描き方で決まるともいえないか。例えば、藤沢周平の小説に登場する武士は〈ちょんまげを結って、刀を差したサラリーマン〉だと言われることがある。言いたいのは、だったら、そのちょんまげや刀の描き方が重要になるのではないかということ。

ところで、Midas氏はマーク・トウェインを引き合いに出して、その『王子と乞食』と『アーサー王宮廷のヤンキー』のトポロジカルな関係を論ずればよかったのにとは思う。

王子と乞食 (岩波文庫 赤 311-2)

王子と乞食 (岩波文庫 赤 311-2)

Everywhere is Hereなど

週末、久しぶりに画廊に行く。
先ず、藝術労動画廊(ART LABOR Gallery)*1の任芷田『哪児都是這児(Everywhere is Here)』。昨年観た任芷田の個展*2とコンセプトは基本的に同じだが、「愚公移山」と題された3枚のシリーズは危険で且つ面白い。また、このカタログには、2008年に任芷田が北京で行ったインスタレーション「墨汁噴泉」の写真あり。

それから、Andrew James Art*3の尹美娟(Dorothy M. Yoon)『女主人公的八次方(8 of Heroines)』。英国在住の韓国人アーティストである尹美娟の作品は、昨年観た『13金髪女郎』*4と同様に、コスプレをした自らの写真を素材としたものだが、今回は「ヘンゼルとグレーテル」を初めとした8人の西洋童話の主人公に扮している。背景として朝鮮伝統絵画が借景され、尹美娟のポーズは泰西名画からの引用である*5。また、コスチュームは朝鮮の民族衣装の素材を使って、尹美娟自身によってデザインされたもの。

さらに、アーティストのKからM50に呼び出され、酒を飲む。

*1:http://www.artlaborgallery.com/

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080331/1206931536

*3:http://www.andrewjamesart.com/

*4:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080313/1205376643

*5:泰西名画のポーズの引用ということだと、作風は全く違うが、日本人アーティスト市川友章を思い出させる。See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090315/1237087906

The Cultural Diversity of Dai-Tai Ethnic Group of China and Southeast Asia in the Globalization


買った本。
鄭暁雲『全球化背景下的中国及東南亜傣泰民族文化』民族出版社、2008*1


英文提要


第一章  緒論:研究的理論背景
第二章 傣泰民族遷移的歴史與傣泰文化圏的形成
第三章 中国傣族的文化特徴
第四章 東南亜国家泰人的一般文化特徴
第五章 傣泰民族文化的当代変遷
第六章 傣泰文化多様性的前景


参考文献
後記

中国、タイ王国、ヴェトナム、ラオスビルマにおける所謂タイ族文化を包括的に述べたもの。かなり詳細な英文サマリーあり。


何故か、ジャパンのTin Drumを見つける。人民服のデヴィッド・シルヴィアンが若い!

Tin Drum

Tin Drum

*1:英題は The Cultural Diversity of Dai-Tai Ethnic Group of China and Southeast Asia in the Globalization

鈴木

『朝日』で鈴木幸寿先生が亡くなったことを知る。


東京外国語大学長、鈴木幸寿さん死去

2009年8月2日19時10分


 鈴木 幸寿さん(すずき・ゆきとし=元東京外国語大学長、元和洋女子大・同短大学長)が1日、胆管がんで死去、87歳。葬儀は5日午後7時から東京都千代田区麹町6の5の1のカトリック麹町聖イグナチオ教会で。喪主は長男隆さん。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0802/TKY200908020102.html

宗旨はカトリックだったんだということには気づいたが、いつもながら日本の新聞の死亡記事の情報量の少なさは驚異的。専攻は社会学、特に政治社会学で、独逸の社会学理論の紹介に努めたくらいの記述があってもしかるべきだろう*1。私が初めて読んだニクラス・ルーマンの本は日本での講演を集めた『システム理論のパラダイム転換』だったが、その中にも鈴木先生への謝辞があった筈で、日本におけるルーマン受容に関しても、それなりの功罪を有するのではないかとも思う。同じ鈴木ということで、

鈴木祥蔵氏死去(関西大名誉教授・教育学)

 鈴木 祥蔵氏(すずき・しょうぞう=関西大名誉教授・教育学)30日午前2時11分、肺炎のため大阪市内の病院で死去、90歳。宮城県白石市出身。葬儀は家族で済ませる。喪主は妻昭子(あきこ)さん。(2009/07/30-20:35)
http://www.jiji.co.jp/jc/c?g=obt_30&k=2009073000978

 

*1:「鈴木幸寿」で検索をかけても、上位に出てくるのはみんな各社の死亡記事関係と古本屋のサイト。

Biological Diversity

『毎日』の記事;


生物多様性:6割「聞いたこともない」 内閣府世論調査
 内閣府は1日、「環境問題に関する世論調査」の結果を発表した。G8環境相会合などでの主要議題「生物多様性」という言葉を「聞いたこともない」との回答が61.5%に上った。政府の第3次生物多様性国家戦略では、11年末までに50%の認知度達成を目指しているが、国内で理解が進んでいない実態が浮き彫りになった。

 調査は6月、全国の20歳以上の男女3000人を対象に面接方式で実施。1919人から回答を得た(回収率64%)。

 生物多様性は、地球上に多様な生物が存在し、それぞれがかかわりながらバランスを保っている状態のこと。来年には名古屋市生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催され、多様性保全のための新たな目標や、遺伝子レベルで医薬品などのもとになる有用生物を取り扱う国際ルール作りなどが議論される予定。

 調査では、生物多様性の意味を知っている人は12.8%、「意味は知らないが聞いたことがある」は23.6%だった。

 一方、多様性の意味を説明した上で環境保全への考え方をたずねたところ、「人間の生活が制約されない程度の環境保全」との回答が過半数を占めた一方で、「制約があっても環境保全を優先」が約4割を占めた。環境省生物多様性地球戦略企画室は「生物と触れ合うなど体験を通じて、多様性の意味と重要性をもっと多くの人に理解してほしい」としている。【大場あい】
http://mainichi.jp/select/science/news/20090802k0000m040118000c.html

実を言うと、英語のbiological diversityは知っていたが、「生物多様性」という日本語は知らなかった。勝手に生物学的多様性と訳していた。〈生物の多様性〉と「の」を加えるとわかりやすくなるのではないかとも思う。また、「生物多様性」解説記事もある;

エコ・ワード:生物多様性 どんな状態のこと?
 地球上には3000万種の生物が存在すると言われています。「生物多様性」は、あらゆる生物と、それらによって成り立つ生態系、さらに遺伝子レベルでも多様で豊かな状態を指します。

 私たちは生物多様性のおかげで、食料、木材、衣服、医薬品など多くの恩恵を得ています。しかし今、生物多様性は危機に直面しています。開発や地球温暖化の影響で、毎年約4万種が絶滅していると推測されています。

 1992年に採択された国連の生物多様性条約は「生物多様性が失われる速度を2010年までに顕著に減らす」との目標を立てました。日本も含め191の国・地域が参加していますが、達成の見通しは立っていません。それだけに、名古屋市で来年開かれる同条約第10回締約国会議(COP10)は、新たな目標と戦略を練り直す重要な会議となります。

 生物多様性という言葉になじみが薄いのも事実です。愛知県が昨年7月実施した意識調査では、86%が「あまり知らない」「ほとんど知らない」と答えました。会議をきっかけに関心が高まることが期待されます。【足立旬子】

毎日新聞 2009年1月12日 東京朝刊
http://mainichi.jp/life/ecology/archive/news/2009/01/20090112ddm016040017000c.html

ここで、(タイトルはベタだが)トマス・ピンチョンの「エントロピー」という短編をマークしておくことは的外れではないだろう。
スロー・ラーナー

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上の『毎日』の記事はhttp://h.hatena.ne.jp/hizzz/9234071228373528500で知った。生物学のイデオロギー的・本質主義的使用について、このほかに、http://h.hatena.ne.jp/hizzz/9234088816446528995 http://h.hatena.ne.jp/hizzz/9234071236258121323もマークしておく*1


生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)」のサイトはhttp://www.cbd.int/