平林由梨*1「生き物のような「愛される建築」」『毎日新聞』2023年3月12日
ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展*2の日本館*3のキューレーターを務める建築家ユニット「o+h」*4(大西麻貴+百田有希)へのインタヴュー記事。
「愛される建築」とは?
大西 [日本館の]テーマは「愛される建築」です。建築を、冷たい人工物ではなく、私たちと生きた関係を結ぶ相手だと思ってみる。(略)中学生のころ、スペインのサグラダ・ファミリア*5を見て建築家を志しました。建築家、アントニオ・ガウディの遺志は本人亡き後も大勢に継がれています。聖堂はもちろん、現在進行形のその状況を含めてバルセロナという街を象徴していました。
そして子どもながらに思いました。「私の周りの建物はこんなに愛されているかな」と。「愛される建築」は建築を学び始めたころから考えているテーマです。
百田 例えば、僕は建物を設計する仕事上の役割がありますが、それが果たせなくなっても必要とされる人間でいたい。建築も同じじゃないかな。何らかの役割や機能を担って出発しますが、当初の目的が果たせなくなっても必要とされる建物であるためにはどうしたらよいか、そんなことを考えたい。
大西 子どもをいとおしむ時に彼らのかけがえのなさを能力や役割で測れないように、建築も欠点や未完の部分を含めていとおしみ、育てる、という価値観が育たないかな、と。1956年に完成した日本館はピロティの柱が生き物の足のようで愛らしい。そうした魅力をふくらませていきたいです。
大西 (前略)
私たちは東京・目黒のビル5階にオフィスをかまえていましたが2014年にここ日本橋浜町に引っ越してきました。ビルの中にいると人とのつながりが生まれにくいと感じたからです。ここは元ガレージ。半屋外状態で最初は寒く、暑かった。でも近くの子どもたちが遊びに来たり、魚屋さんが「模型用に」と発泡スチロールを差し入れてくれたりと、思わぬ出会いがありました。今は近くの神社の脇を公園にしようと町内会の皆さんと取り組んでいます。自分たちが運営者、当事者としてその街のことを考え、変えていく、というのは一つの可能性ではないでしょうか。
百田 大事にしたい価値観を建築を通して形にし、社会の在り方を構想することもできます。16年に奈良県に完成した「グッドジョブ!センター香芝」は障害のある人と共に社会に仕事を生み出す拠点です。福祉施設って、ともすると管理する側の視点でつくられる場になりがちです。そうならないためにはどうすればよいか模索しました。
そして、たくさんの壁や屋根、天井や家具を集め、いろんな隙間が存在する、ひとつながりの空間を提案しました。吹き抜けのギャラリーがあれば少し暗い隠れがもある。みんなの気配を感じながら、それぞれが気持ちのいい居場所を見つけられるようにしたかった。制度の区分や障害の度合いでスペースを区切れば分かりやすいですけれど、現実はもっとグラデーション状のはず。そんな当たり前を建築で示したかった。
大西 私たちは病院や家などで生まれ、学校や職場に通い、バス停で待ち、家で寝たり食べたりする。そしれ最期も多くの場合、建物の中で迎える。想像以上に場に影響を受けているのです。その一つ一つがより創造的で愛情のこもったものであれば社会はもっと良くなると思うのです。
*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/08/20/130744 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/05/01/135539
*2:https://www.labiennale.org/en/architecture/2023
*3:https://venezia-biennale-japan.jpf.go.jp/e/architecture
*4:http://www.onishihyakuda.com/ https://www.instagram.com/onishi_hyakuda_architects/ See eg. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%A5%BF%E9%BA%BB%E8%B2%B4%2B%E7%99%BE%E7%94%B0%E6%9C%89%E5%B8%8C_o%2Bh
*5:http://www.sagradafamilia.org/ See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060813/1155434004 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/12/11/110310