鬼気迫る?

http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151120/1448037623に対して、


Talpidae 2015/11/21 17:41
私のとある発言を聞いて「鳥肌もの」と誉められた(?)ことがあります。女性にかぎらず、お若い方はふつうに使われていらっしゃるようです。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151120/1448037623#c1448095287
そうなんですか。これは「お若い方」にとっては些か古風な表現で言えば、


鬼気迫る


ということになるのでしょうか。まあ、1980年代には考えられなかったけれど、21世紀の現在においては、私のような中高年でも「やばい」という言葉をポジティヴな事象の形容に使っているのと*1同じような感じなのでしょうかね。中国語でも最近は窅害をポジティヴな意味で使うようになった、とか。或いは、英語のawesome
でも、私が「うれしくて鳥肌」というのが気になったのは、「鳥肌」というのが何よりも身体的反応だからです。曰く、


私たちの肌にも体毛が生えており、その1本1本の根元には立毛筋(りつもうきん)という筋肉が付いています。立毛筋は交感神経の支配を受けていて、寒さや恐怖などの刺激を受けると交感神経が緊張するので、立毛筋は自分の意思とは関係なしに反射的に収縮、毛穴は閉じられ、肌に沿って斜めに生えていた体毛が立ち上がります。同時に毛穴の周囲の皮膚が持ち上がるので、鳥の肌のようにブツブツ状態になるのです。
http://health.goo.ne.jp/column/fitness/f002/0098.html
最近の若い人は、うれしさによって「交感神経が緊張」し、立毛筋が収縮してしまうのだろうか。これは身心関係ということでも大問題だよ。また、生理学的には、「鳥肌」は刺戟から生体を防衛するという意味がある(例えば、体毛による保温効果とか)。あなたは自らの嬉しさという刺戟から防御されなければならないの?
さて、内山勢「「感動して鳥肌が立った」と答えた女子学生の大きな過ち」という記事を読んだ*2。アナウンサー志望の女子学生の話。
曰く、

面接官「映画の話をしてください」

 吉田さん「最近見た『レ・ミゼラブル』に感動して、鳥肌が立ちました」

 脇で見ていた採用担当者が「感動して鳥肌が立つという表現はないんですよ」と諭した。

 何を言っているのか理解できなかった。吉田さんは「えっ? でも実際に立ったんですよ。この話をしている今もすごい立っているんです。見ますか」と言ってしまった。

 採用担当者は、苦笑いしながら、「いや、結構です」と語った。面接は実質、そこで終わった。

 「鳥肌が立つ」は、寒さや恐怖、嫌悪感を表す言葉。ところが最近は感動表現で使われることが多い。もちろん誤用であり、定着もしていない。若者同士で使うのは構わないが、アナウンサー志望者が、公式の場で言うのはまずい。テレビで言ったら、それこそ教養が問われる。それを知ったのは、面接後。「やってしまった……」と後悔したが後の祭りだ。

私が違和感を持ったのは、嬉しいという感情と「鳥肌」という身体的反応(反射)の組み合わせに対してであり、心が激しく揺さぶられることという意味での「感動」についてはそんなに違和感を感じない。観ていないので、『レ・ミゼラブル』が「鳥肌」に値するかどうかについての判断は保留せざるを得ない。でも、アート作品や文学的テクストに接して、心が激しく揺さぶられてしまい、慄きつつ立ち竦んでしまうということを経験することは少なくないだろう。そういうときに「鳥肌」という身体的反応が付随するということもあるかも知れない。美と崇高の区別ということもある。「採用担当者」に対していうべき言葉は、カントを読め、エドマンド・バークを読め! ということだったかも知れない。岡本太郎藝術は爆発だ! を引用してもよかったかも知れない。或いは、貴局の番組はチープなお涙頂戴や通俗的な美談であって、真に心を揺さぶるということはないということでしょうか、とか。