エルサにあやかり/ちなんで?

シネマトゥデイ』の記事;


『アナ雪』エルサ命名、米で1,000人以上!オラフやスヴェンと名付ける親も

2015年7月8日 10時57分


 映画『アナと雪の女王*1の大ヒットは赤ちゃんの名前にまで影響を与えていると The New York Times 紙が報じた。米社会保障局の発表によると、2014年だけで1,000人以上の女の子がエルサと命名されたとのこと。これによりエルサという名の人気度は一気に286位に上がったそう。500位以内に入るのは1917年以降、初めてだという。

 『アナと雪の女王』は、エルサとアナという王家の姉妹が繰り広げる真実の愛を描いたディズニー作品。同作は男の子の名前にも影響を与え、劇中に登場する雪だるまのオラフと昨年名付けられた子は22人、山男のクリストフの名は32人、トナカイのスヴェンの名は55人だったという。

 一方、アナはもともと人気のある名前で、映画の影響で大きく増えた様子はなく、人気度は昨年の35位から34位に上がるにとどまったそうだ。(澤田理沙)
http://www.cinematoday.jp/page/N0074717

これは「エルザ」や「オラフ」に肖ったのだろうか。それとも因んだのだろうか。
以前、菅原和孝氏の『ブッシュマンとして生きる』から、

川田順造は、世界の諸民族の名づけの慣習を「あやかり」と「ちなみ」に大別している(『聲』筑摩書房)。聖人の名をつけることも、めでたい意味の語をつけることも、わが子がなんらかの高い価値に「あやかる」ことを願うものである。それに対して、ある出来事に「ちなんだ」名づけは、こうした価値づけとは無縁である。

この川田の二分法とほとんど同じことだが、私は、「祈念」と「記念」という語呂合わせを用いたい。わが国の親たちが「良い名前」をつけることによって、わが子の幸福な人生を「祈念」するのに対して、グイ/ガナは、名づけによって印象的な出来事を「記念」する。後者の場合、個人名は、共同体の成員が過去をふりかえるための「記憶装置」として役立つのである。(pp.40-41)

という一節を引用したことがあったのだ*2。因みに、修辞学的には、「あやかり」/「祈念」は隠喩に、「ちなみ」/「記念」は換喩に対応するといえるだろう*3
ブッシュマンとして生きる―原野で考えることばと身体 (中公新書)

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声 (ちくま学芸文庫)

声 (ちくま学芸文庫)

『アナ雪』の登場人物たちに肖っているということは勿論想像することができるが、出産の前日に両親が『アナ雪』を観ていたからとか、両親が『アナ雪』を観た後セックスしたら妊娠したということも想像した。その場合は、「あやかり」というよりは「ちなみ」になる。勿論、この「エルサ」とか「オラフ」とか「スヴェン」という「個人名」が将来「共同体の成員が過去をふりかえるための「記憶装置」として役立つ」ということもいえるだろう。将来、私たちは「エルサ」という名前の女性を通して、彼女が生まれた頃はちょうど『アナ雪』というアニメが流行っていたんだなと、歴史を想起することになる。
さて、「ちなみ」による命名ということだと、是枝裕和の『そして父になる*4で、リリー・フランキーは息子が生まれた日の天気について、沖縄みたいな青空だねと言って、琉球の晴れ、つまり「琉晴」と、取り違えられ、後に福山雅治尾野真千子の子どもだと判明する男の子に命名するのだった*5。