折角だからTa Mokoの勉強でもしてみたら?

北海道新聞』の記事;


先住民族マオリ女性の入浴拒否 北海道・石狩管内の温泉、顔の入れ墨理由に

(09/12 06:25)

 ニュージーランド先住民族マオリの言語指導者で、日高管内平取町で6日まで開かれたアイヌ語復興を目指す講習会の講師を務めた女性が、石狩管内の民間の温泉施設で顔の入れ墨を理由に入館を断られていたことが11日、分かった。講習会関係者は「入れ墨はマオリの尊厳の象徴であり、大変残念」としている。

 女性はエラナ・ブレワートンさん(60)。講習会関係者ら約10人で8日、札幌市内でのアイヌ民族の行事を見学後、入浴と食事のため温泉施設に行った。その際、ブレワートンさんの唇とあごの入れ墨を見た温泉側が「入れ墨入館禁止」を理由に入館を断った。同行したアイヌ民族の関係者らが温泉側に「多様な文化を受け入れることが必要では」と再考を求めたが聞き入れられなかった。

 同温泉は、入り口に「入れ墨入館禁止」の看板を設置。入れ墨がある人の入浴はすべて断っているという。ブレワートンさんは「深い悲しみを感じた」と落胆。温泉の支配人は「入れ墨にもいろいろな背景があることは理解するが、一般客はなかなか分からない。例外を認めると、これまでの信頼を裏切ることになる」と説明している。<北海道新聞9月12日朝刊掲載>
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/491172.html

「温泉施設」側にも一理あるかもしれないけれど、〈禁止〉を上手くコミュニケートすることができずに、お客様に「深い悲しみを感じ」させてしまったことは、接客業として批判されても仕方がないだろう。「多様な文化を受け入れること」以前の問題として。
ところで、「入れ墨」という表記を見ると、おいおい刺青とか文身という表記を使えよと思ってしまう。「入れ墨」から連想するのはスティグマ。例えば日本の場合だと、(江戸時代の)佐渡送りとか。手首の「入れ墨」を見ると、何処の島から抜けたのかが一目瞭然。或いはアウシュヴィッツプリーモ・レーヴィの『休戦』(岩波文庫)から少し引用してみる;

(前略)初めて自分の足でドイツの一端を踏みしめることは、つまり高シレジアでもオーストリアでもなく、ドイツそのものに足を踏み入れることは、私たちの疲労に別のものを積み重ねることになった。それは狭量さ、挫折感、緊張感から成る複雑な心理状態だった。私たちはドイツ人の一人一人に何か言うことがある、それもたくさん言うことがあると感じていた。そしてドイツ人もそれについて、私たちに言うことがあるだろうと思った。私たちは急いで結論を出したいと思った。試合が終わった後のチェスの指し手のように、質問し、説明し、解説を付けたいと思った。《彼らは》知っていたのだろうか、アウシュヴィッツについて、日々の静かな虐殺について、自分の戸口の少し先で行われていたことを? もしそうなら、どうやって道を歩き、家に帰り子供たちと顔を合わせ、教会の扉をくぐれたのだろうか? もしそうでないなら、彼らは私たちの、私の言うことに耳を傾け、学ぶべき神聖な義務がある。それもすべてを、すぐに。私は腕に入れ墨された番号が、切り傷のように熱く燃えるのを感じた。(pp.348-349)*1

フルビネクは三歳で、おそらくアウシュヴィッツで生まれ、木を見たことがなかった。彼は息を引き取るまで、人間の世界への入場を果たそうと、大人のように戦った。彼は野蛮な力によってそこから放逐されていたのだ。フルビネクには名前はなかったが、その細い腕にはやはりアウシュヴィッツの入れ墨が刻印されていた。フルビネクは一九四五年三月初旬に死んだ。彼は解放されたが、救済はされなかった。彼に関しては何も残っていない。彼の存在を証言するのは私のこの文章だけである。(p.35)*2
休戦 (岩波文庫)

休戦 (岩波文庫)

アウシュヴィッツサヴァイヴァーも日本の銭湯とかでは入場を拒否されてしまうのか。それはさて措き、スティグマとしての「入れ墨」は江戸時代の日本にせよナチスにせよ、人間を非人格化して管理するためのものだから、美学的な配慮はない。それと関連しているかどうかはわからないけど、最近「入れ墨」が議論される際には美学的或いは文化論的な視点が欠如しているのではないか*3。「入れ墨」に関わる思考がナチス化しているといえるのかも知れない。またそのことと、「入れ墨」なんていう表記を機械的にしてしまうこととは関係しているといえるだろう。
ところで、この機会にマオリの文身文化のお勉強をしてみるのも意義深いことなのでは?


(Wikipedia entry on) “Tā moko” http://en.wikipedia.org/wiki/T%C4%81_moko
“Ta moko - significance of Maori tattoos” http://www.newzealand.com/travel/media/features/maori-culture/maori_ta-moko-significance_feature.cfm
“The Tattoo (Ta Moko)” http://history-nz.org/maori3.html
“Maori Tattoohttp://zealandtattoo.co.nz/maori-tattoo/
“Traditional Maori Tattoo Gallery (Ta Moko)” http://zealandtattoo.co.nz/new-zealand-tattoo-gallery/new-zealand-maori-tattoo-gallery/