Skeltia_vergberさんを通して、以下の『読売』の記事を知る*1;
何年か前にも、たしか〈オレオレ中野学校〉というのが摘発されたとは思うけれど、この手の犯罪組織というのは、表社会におけるビジネス組織のパロディとしてあるというのはたしかであろう。
振り込め犯「成果主義」、ノルマ月1千万円・グラフ競争
釧路地裁帯広支部(野原俊郎裁判長)で23日開かれた振り込め詐欺集団の主犯格の公判で、「ノルマは月1000万円、成績はグラフで競争」など営業マンさながらの「成果主義」による管理ぶりが明らかになった。詐欺と組織犯罪処罰法違反の罪に問われた、住所不定、無職XXX被告(26)の初公判で検察側が明らかにしたもので、「卑劣さが目に余る」などとして、XX被告に懲役10年を求刑した。
グループは電話役や通帳の入手役、口座に振り込ませた現金の引き出し役などを細かく役割分担。担当間では直接接触させず、互いの氏名も隠すなど二重三重の発覚防止策を講じた。さらに電話役には、だます内容の「ネタ作り」報告書の提出を求めたほか、月1000万円のノルマを課し、個々の“成績”を示すグラフを作り、競争心をあおっていた。
被告人質問でXX被告は、「全部で数千万円ぐらいだまし取り、うち1000万円ぐらいを手にした」と供述した。
(2007年4月24日0時13分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070423i213.htm
「ノルマ月1千万円」の環境で〈仕事〉?をやっていた手下というか労働者どもはどんな心づもりで日々を過ごしていたのかというのが気になった。というのも、テレフォン・アポイントメント、縮めればテレアポをやっていた奴がいたのだけれど、その語り口からするに、電話をかけてアポイントメントを取るということをゲームのタスクをクリアするのと同一視しているようだった。まかり間違っても、顧客の満足というような発想は出てこない。勿論、テレアポは犯罪ではなく、合法的なビジネスである。また、テレアポをやっている人が全員そう考えているというわけでもないだろう。偶々そういう語り口を知ったというだけの話だ。ただ、客を(悪くいえば)カモとしか見ない態度というのは、もしかしたら上の「振り込め詐欺」の下っ端労働者も共有されているんじゃないかと推測したのだ。
飯の種ということのほかに、クライアントの満足が自己肯定感に繋がるというのが労働をする動機付けになるということはたしかにあるのではないかと思う。一方では、そのような自己肯定感が得られない労働もあるだろうし、また顧客の満足なんて甘いことを言ってられないよということもあるだろう。どういう場合に、クライアントの満足という動機付けが前面化しない労働が生起するのかということについて、薄っぺらい思いつきをしてみた。先ず、客のリピーター化(常連化)をあまり前提にしていないこと。顧客の満足を考慮せずただぶったくればいいという態度ではリピーター化(常連化)は起こらない。例えば、知らない土地に行ったときにちょっと食事をしようと思うとき、取り敢えず地元の古くて汚い店を基準にする。余所者ではなく地元の人が日常的に食事をするということを前提とすれば、不味い物を出していたのでは、汚くなるまで店が生き残れるということはないのではないか。上で言及した奴が扱っていたのは学習教材だった筈。学習教材というのも一度契約したら、この少子化のご時世では、その家で再度買うというのはあまりないんじゃないか。その場で客の満足・不満足がわかるレストランはともかくとして、顧客の満足というのは買った商品をある程度使い込むこと、すなわちそれなりの時間を前提とする。「成果主義」、例えば基本給が極端に少なく給料の殆どを歩合給が占めるというような事態だと、そんな悠長なことは言ってられない。また、労働者がその会社或いは業界で長期間働こうと思っている場合、顧客の満足度を高めてリピーター化させることは自分の実績にも繋がるし、何よりもクレームが原因で自分が解雇されたり、会社それ自体が傾いたりしたら、元も子もない。しかし、最初からそこには長くいないつもりだったらどうだろうか。その場合、短期間に量的な実績を上げることが優先されるのでは? クレームが来るといっても、その時点では既に退社していたりすれば、痛くも痒くもないということになるか。
成果主義とか雇用の流動化といった新自由主義的な状況は労働者のモラル・ハザードを誘発しやすいとはいえるのだが、それとともにリピーター性の有無(強弱)というのは重要な因子だと思う。悪質リフォーム詐欺にしてもマンションの耐震構造偽造にしても、一生のうち何度も家のリフォームをするわけではないし、自動車みたいに何年かに一度マンションを買い換えるということもしない。これらの商品に関して、客がリピーター性は弱いと言える。
*1:要請により、被告名を伏字化した。