社会調査を巡っていくつか

ここ数日、blogを更新する気力を保てず。
今朝はスパム・コメント5連発。気を取り直して、更新でもしようかと思えば、今度は「はてな」のサーヴァーの機嫌が悪いらしく、操作しようとすると、Internal Server ErrorとかBad Gatewayとか。

さて、『毎日』の記事なり;


世論調査>回収率が5割台に急落 個人情報保護法の影響も

 政府が国民意識を探る目的で継続的に実施している各種世論調査(面接)の回収率が、昨年秋以降、軒並み前回の7割前後から5割台に急落した。「なぜ住所が分かったのか」などの拒否反応が増えたためで、調査を所管する内閣府は、昨年4月に全面施行された個人情報保護法の影響もあるとみている。同法のマイナス効果とも言える現象に、調査の精度低下への懸念も出ている。
 政府が継続して行っている世論調査のうち、個人情報保護法の全面施行後に実施したのは、20日発表の「社会意識調査」を含め七つ。うち、直後の二つを除く他のすべてで回収率急落現象が起きた。同法の全面施行前までほぼ7割台で推移してきたにもかかわらず、前回比で10.4〜18.5ポイント下落。
 約2400万円で実施した社会意識調査の場合、5倍の日数をかけた効果もなく、回収率は15.2ポイント減の50.7%で、前回の2倍近い2994人から回答を拒否された。1月の薬物乱用対策調査の回収率は18.5ポイント減の52.5%だった。
 内閣府によると、回収率急落の一方で「どこで住所を調べたのか」などの抗議や問い合わせは急増している。調査を実施するたびに1日10件程度の電話がかかり、相談を受けた警察や消費生活センターが問い合わせてくるケースもあるという。
 回収率が急低下した原因について、内閣府の調査を請け負う社団法人新情報センターの担当者は「相次ぐ振り込め詐欺などで情報流出への警戒感が強まり、それを個人情報保護法のイメージが後押しした」と分析する。
 内閣府には「回収率が下がれば調査の誤差が広がりかねない」(内閣府政府広報室)との懸念があり、個人情報保護法に抵触しないことを丁寧に説明したいという。
 ◇危機的な状況だ
 ▽世論調査に詳しい関西学院大の大谷信介教授(社会調査論)の話 危機的な状況だ。政府の世論調査は国の施策にも反映されるため、重要性をきちんと広報しなければならない。これだけ未回収が増えれば、調査に応じなかった層の意見を拾い上げる別のアプローチが必要だ。世論調査をどう補完していくか、考える時期を迎えている。
【渡辺創】
毎日新聞) - 5月21日3時14分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060521-00000017-mai-soci

各種調査に対する拒否の増加は数年前から問題になっており、日本社会学会でも、それに関する特別のセッションがあった筈。「個人情報保護法」は拒否を正当化するための資源として機能しているのではないか。あくまでも拒否を正当化するための資源なのであって、「個人情報保護法に抵触しないことを丁寧に説明」したところで、あっさりと協力してくれるのだろうか。それよりも、問題なのは、調査主体たる社会のエスタブリッシュメント、例えば政府機関、大学、大企業などへの信頼の低下なのかも知れない。また、たしか日本は、他の先進国に比べて、以前から調査への協力度が低かったということも聞いたことがある*1。「信頼」が高ければ高いで、権威に阿った回答の可能性も高くはなるのだが。
また、世論調査に関して、五十嵐仁氏*2

 世論調査については、これまでもいくつかの問題点を指摘してきました。電話調査は固定電話が対象で昼間に調査されますから、対象の多くが主婦や高齢者になりがちです。面接調査であっても、昼間在宅していない人は自動的に除外されます。
 このように、調査対象について必然的に生まれるバイアスが、調査内容を歪めているのではないでしょうか。加えて、最近では新しい問題が発生しています。
 それは、回収率の急落です。『毎日新聞』5月21日付一面の「回収率急落、5割台に」「個人情報保護法が影響」という記事が、この問題を報じています。


 それによれば、「政府が国民意識を探るために実施している各種世論調査(面接)の回収率が、昨年秋以降、軒並み前回の7割前後から5割台に急落した」といいます。回収率が低下すれば、調査の精度や信頼性も低下せざるを得ません。
 問題は、恐らく、それだけではないでしょう。このように低下した理由が、「個人情報保護法の影響もある」というのですから……。
 個人情報に敏感なのは、比較的、政治に関心が高く、一定の知識がある人々だろうと思われます。政治についてきちんとした意見を持っている人が、個人情報への懸念から世論調査への回答を忌避するというのであれば、当然、調査結果の内容については無関心層の意見が大きく反映することになるでしょう。政府などにとっては、あまり批判的ではない、利用可能性の高い調査結果が得られるということになるかもしれません。


 情報が満ちあふれている今日、私たちにはどのような情報が必要なのか、何が正確な情報なのか、その内容について正しく判断する「情報リテラシー」の能力が要請されています。同様に、各種の世論調査についても、その結果を鵜呑みにするのではなく、どれだけ世論の分布を正確に反映しているのかを判断する「世論調査リテラシー」の能力が求められているのかもしれません。

と言っている。この中で、「電話調査は固定電話が対象で昼間に調査されますから、対象の多くが主婦や高齢者になりがちです」と言われているが、ほんとうにそうなのだろうか。それを回避するためにも、(私の経験では)調査は平日の夜若しくは週末に行われていると思うのだが。さらに、クォータを導入すれば、ジェンダーや年齢層のバランスを取ることは可能である。何れにしても、デモグラフィックなデータの単純集計を見れば、サンプルの構成は明らかになる筈である。世論調査のサンプル構成を批判するならば、そのような手続きは必須かと思われる。
http://blog.goo.ne.jp/nakanisi-sakai/e/5ee648ecc9dd559c36a419187f3278a0で指摘されているのは、寧ろ調査のワーディングや調査票の設計に関する疑問である。その批判には妥当性があると思うが、そこで『朝日新聞』の世論調査に対置されている、街頭でシールを貼ってもらうという調査*3の妥当性も如何なものかと思う。それはランダム・サンプリングに基づく世論調査とは同列には論じられないものだと思う。そもそもそこではサンプルのランダム性は確保されていないわけだし、さらに問題なのは、道端で立ち止まってそのような調査に参加しようとする人というのは、関心の高い人に限られるのではないかということである。また、調査をしている主体とのイデオロギー的な親和性も大いに影響すると思われる。しかしながら、マス・デモクラシーにおいては、いい悪いは別として、関心の高い人ではなく、低い人の気分こそが社会全体の行く末に大きな影響を及ぼす。五十嵐氏は「政治についてきちんとした意見を持っている人が、個人情報への懸念から世論調査への回答を忌避するというのであれば、当然、調査結果の内容については無関心層の意見が大きく反映することになるでしょう」と述べているが、そのような意見というのは、数量的な調査によって初めて明るみに出るものなのである。
問題なのは、数量化された「民意」がどのように正当化のための資源として使用されるのかということであり、さらにいえば、そのような「民意」を資源として使用することの意味それ自体、或いは世論を数量に還元してしまうこと自体が問題となってくるのではないかと思われる。
因みに、電話調査によって明らかになるのは、最初に国籍でスクリーニングをかけないかぎり、〈日本国民〉の意見ではなくて、あくまでも〈日本国内に在住しつつ日本語を話す人々〉の意見である。

*1:但し、これについて、具体的な数字を見たわけではない。

*2:http://sp.mt.tama.hosei.ac.jp/users/igajin/home2.htm

*3:http://tohyou.exblog.jp/