太平輪

周瑜「両岸首次合祭“太平輪”罹難者」『東方早報』2010年5月26日


5月25日、舟山「白節山島」附近の海域で、1949年に発生した「太平輪」海難事故の慰霊祭(「海祭」)が挙行され、2名のサヴァイヴァーと30数名の遭難者親族が出席した。記事によれば、「太平輪」の海難は「東方泰坦尼克号*1事件」とも称され、1949年1月27日、「太平輪」が上海から台湾の基隆へ向かう途中、白節山島附近の海域で1艘の貨物船と衝突・沈没し、1000人以上の人が遭難した。「太平輪」の海難のサヴァイヴァーで現在も健在なのは、台湾在住の王兆蘭と香港在住の葉倫明の2名のみ。

Francis Baconなど

“Penguin Great Ideas”*1の中英バイリンガル・ヴァージョン(「偉大的思想」)が出ていた。版元は中国対外翻訳出版公司。梁文道氏*2による「観念――《偉大的思想》代序」とSimon Winder “Introduction to the Chinese Edition of Great Ideas”を付す。Francis Bacon Of Empire(弗朗西斯・培根『論君権』)を買う。

Of Empire (Penguin Great Ideas)

Of Empire (Penguin Great Ideas)

また、現在上海外灘美術館(Rockbund Art Museum)で開催されている『蔡國強:農民達芬奇(Cai Guo-Qiang: Peasant Da Vincis)』*3に因んだ、王寅*4『異想天開:蔡國強與農民達芬奇』(廣西師範大学出版社、2010)。

序言 
説説我和《農民達芬奇》(蔡國強)


現場
尋訪農民達芬奇
呉玉禄
陶相礼
杜文達
王強
曹正書
李玉明
熊天華
徐斌
呉書仔


訪談
蔡國強:我在做甚麼


附録I
尋訪農民発明家下郷日記


附録II
中国農民生生不息的好奇心(張鳴)
我們的夢想能飛多高?(蘆躍剛)


後記

今年的油菜花和往年多麼不同

Ruth Ecklandに簡策

ギャラリーを2軒廻る。どちらも日本滞在中にスタートしたため、オープニングには行けなかった。
Stir Gallery*1のRuth Eckland Hive(『蜂巣』)。Matt DiFonzo(音楽)と馮健偉*2(絵画)がコラボレーションしている。ヴィデオを使ったインスタレーション。ここで「蜂の巣」というのは「現代生活のリアリティを特徴づける諸分裂と断片化」のメタファーだということだが、私は寧ろ立体性或いは複雑性を意味しているのではないかと思った。次々と断片的なイメージが現れていくこのインスタレーションでは、光(イメージ)が通過するスクリーンが何枚も重ねられることによって立体的(3D)効果がもたらされている。平面性から(「蜂の巣」のような)立体性へ。

Andrew James Art*3の簡策(Jian Ce)Marco Polo: A Travel Guide(『馬可・波羅:旅行指南』)。簡策は1984年に山東省済南に生まれ、1988年に独逸へ移住。現在は伯林に在住している。これが中国における最初の個展となる。異邦人の視点(マルコ・ポーロ的視点?)による上海スケッチ集。「外灘」「老市区」「仏蘭西租界」「浦東」「料理」「文化」「旅行者のための一般的アドヴァイス」からなる。特徴としては、少なからぬ絵で印象派的な技法がパスティーシュされていること。尤もその光と色彩の加減にデヴィッド・ホックニー的なものを感じてしまったが。なお、この展覧会のカタログはブックレットとして素晴らしい。

「あいつらだけずるい」など

http://d.hatena.ne.jp/dongfang99/20100523/1274575282


曰く、


 私が「新自由主義」と呼ばれるものが嫌いなのは、その社会観や経済理論そのものではない。むしろ、規制緩和や市場競争の強化を呼号する人たちのなかに、例外なく官僚・公務員から高齢正社員にいたるまでの「既得権益者」へのルサンチマンが蔓延している(少なくともそれを利用して自説を正当化する)ことにある。そこには例外がなくと言ってよいほど、「あいつらだけずるい」という集団主義的な感情が語られている。
この一節には共感するところ大なのだが、最後の「あいつらだけずるい」と「集団主義的な感情」の結びつきはよくわからない。個人主義者だって「あいつらだけずるい」という感情を発することはあるよ。寧ろ人類学者のGeorge M. Fosterが農民社会を特徴づける世界観として論じたimage of limited goodというコンセプトを念頭に置いた方がわかりやすい。これについてはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071123/1195785068でも言及しているのだが、そこで示したフォスターの2つのテクスト;


“Peasant society and the image of limited good” American Anthropologist 67, 1965, pp. 293- 315

“The Anatomy of Envy: A Study in Symbolic Behavior” Current Anthropology 13, 1972, pp. 165-202


を再度提示しておきたい。フォスターによれば、農民社会(peasant society)に生きる人々にとって世界は閉じられており、それ故に世界内の諸資源は限定されている(limited)。限定されているのは物質的な諸資源だけでなく、名誉とか愛といった非物質的な諸資源も同様である。そこにおいて社会関係を調整する基本的な情動は「妬み(envy)」であるが、フォスターは、妬みは屡々「道徳的憤激(moral indignation)」のかたちを取ることもあるという。「あいつらだけずるい」ということだ。勿論(全体としての)現代日本社会を農民社会として特徴づけることはできないだろう。しかし、農民社会(日本風に言えばムラ社会)において形成された心性は、その基盤となる社会編制が変容しても、変形を蒙りつつ残存して、それなりの社会学的・心理学的機能を果たしているということは十分に考えられる。それについては(ニーチェ的な意味での)ルサンティマンの働きについて考察しなければならないが、それは後日*1
また、


断っておくと、これはもちろん単調な「新自由主義」批判、大企業批判を繰り返す左翼にも同様なことは当てはまる。一頃流行った「帝国」論が典型的だが、真正面からマルクス主義を掲げる人は皆無になったものの、どこかに全世界の人民を「搾取」しているモンスターがいるかのような想定で議論を構築している姿勢は相変わらずである。ただ幸か不幸か、こういう議論はもはや人文系の知識人のなかの「内輪ネタ」と化していて、日本社会の中のルサンチマンとまったく接点を持つことができずにいるのではあるのだが。
ともいう。ネグリ&ハートの「帝国」の議論ってそうだったんだっけ? 寧ろ反対に古典的な帝国主義論の「どこかに全世界の人民を「搾取」しているモンスターがいるかのような想定」が脱構築されているのでは? 勿論、左右を問わず、「ユダヤ権力」だか「悪徳ペンタゴン」だか知らないが、マニ教的とも言える〈隠れた悪の主体〉という議論をする人(所謂陰謀理論家)は掃いて捨てる程いる。以前陰謀理論と「主体性」を巡って、「モンスター」的な陰謀主体を定立することの主観的勝利に対する効果、世界の偶然性や複雑性を安直に克服する効果とかについて議論したことがあった*2。もうひとつ言えば、自己責任回避の効果だろう。

〈沈没〉を巡ってメモ

韓国の哨戒艦「天安」沈没を巡っては、今のところ、北朝鮮が黒に近い灰色という感じなのだろう。北朝鮮がすぐさま捏造だ! と喚いたのは、刑事裁判においても検察側の訴追に対して被告・弁護人側は無実を訴えることから裁判ゲームが開始されるのだから、当然といえば当然だろう。ただ、あの語り口は第三者の心証を悪くするということはたしかだろう。事実、北朝鮮のあの喚き方から思い出したのは、痴漢冤罪を訴える日本の某エコノミストのちぇんちぇーだった。
さて、


Tania Branigan “North Korea threatens South over report on sinking of warship” http://www.guardian.co.uk/world/2010/may/20/north-korea-naval-ship-report


この中で、英国Cranfield大学の北朝鮮研究者Hazel Smithは、平壌が魚雷攻撃を命令したとは信じないと述べている。「連中にとって何もいいことがない(There is no mileage in it for them)」。彼女の判断では、北朝鮮の命令系統は機能しておらず、現場が勝手に暴走している。また、北朝鮮は「怒号」の中にも交渉の意思を示しているという。「証拠を見せろ」。だったら、証拠を見せてやればいいのだが、現在韓国も米国も北朝鮮との交渉ルートを持っていないのが問題なのだと。


Mark Tran “North Korean dissident plots revolution in London” http://www.guardian.co.uk/world/2010/may/20/jooil-kim-north-korea


倫敦を拠点として反政府運動を行っている元北朝鮮軍大佐のJooil Kim氏について。北朝鮮の体制に疑問を持ち始めた彼は、2005年に図満江を泳いで中国に越境し、2007年10月に倫敦に辿り着いた。何故脱北者が多くいる韓国ではなくて倫敦なのか。Kim氏によれば、長期に亙る洗脳の結果、北朝鮮人民は韓国を拠点とする組織を受け入れることはない。米国についても同様。彼は既にウェブサイトを有しているが*1、3年以内に日本に北朝鮮全体をカヴァーする衛星TV局を開設することを計画しているという。


新しい動きとしては、問題の海域での韓国の軍事演習の開始;


Tania Branigan “South Korean navy starts military exercises” http://www.guardian.co.uk/world/2010/may/27/south-korea-military-drills


See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081001/1222829012