「フウ」、カエデにはあらず

歪み真珠 (ちくま文庫)

歪み真珠 (ちくま文庫)

山尾悠子「ドロテアの首と銀の皿」(in 『歪み真珠』、pp.91-130)の舞台は「フウの木屋敷」と呼ばれている。


屋敷は古雅な趣きのあるすがたを持ち、周囲を広く囲んだフウの林のためにフウの木屋敷と呼ばれた。歳の離れた夫とそこで過ごしたのは十年あまりに過ぎなかったが、三つの尖りを持つフウの広葉が薄い金いろに染まるごとに隠棲の日々の静けさはより深まるように思えたものだ。夏の終わりに夫が倒れ、急死したその年の秋のことは今でも忘れない――幾つかの出来事があり、黄葉する木ばかりだった庭はその翌年から薄赤い金いろに染まるようになった。赤味は年毎に強まって、今ではすっかり燃えるような朱赤に紅葉するフウの庭である。哀れっぽく夫を探し続けていた犬たちもやがて諦めて私の周囲に寄り添うようになり、順に年老い、その何匹かは庭で眠っている。フウの木の根方で、湿地の茸が化けたように白いむすめが立っていたあの根方で。(p.92)
「フウの木」ってどんな木なんだと思った。「フウ」とは漢字で書けば「楓」。「楓」といえばカエデ(maple)だが、「楓」をカエデと訓じ、mapleの意味で使うのは厳密にいえば間違いであるらしく、そもそもカエデ(maple)に対応する漢字は「槭」である*1。上海に「楓林路」という路があるけれど*2、これはカエデの林ではなく「フウの林」。
「フウ」については、


「フウの1年-楓 (2001.2-11)」http://www.plant.kjmt.jp/tree/kigi/fuu2.htm


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