アルベールの移行(メモ)

ジュリアン・グラック*1『アルゴールの城にて』(安藤元雄訳)の登場人物の一人「アルベール」について。


(前略)彼の精神がまず最初に打ちこんだのは、何よりも哲学上の探究だった。 二十歳にして成功やら出世の道やらをすべて考慮の外に置き、感覚と思考によって世界の謎を解くことを自分の使命と思い定めた。カントを読み、ライプニッツを、プラトンを、デカルトを読んだが、生まれつきの好みの傾向から、やがてもっと具体的な、あえて言えばもっと意欲的な哲学、世界を大きく両腕で抱きとめながら、そこにしかじかの特殊な光線をさしこませるだけでは満足せずに、それを構成する各部分を数え上げながら総体的な真相と説明とを求めて行く、アリストテレスのような、プロティノスのような、スピノザのような哲学へと向かって行った。だがとりわけ彼が強烈な好奇心の対象としたのは、哲学界の天才のうちの帝王とでも呼ぶべきヘーゲルだった。この体系構築と諸学総合の王者、あらゆる抽象的認識からその栄光の冠を奪った人物、どんな輝かしい哲学体系もその人にとっては彼自身の巨大な銀河を形づくる星雲にすぎない人物に対して、彼は強烈な偏愛を捧げるようになっていた。弁証法こそはアルキメデスが嘲笑まじりに要求した、世界をすら持ち上げるあの梃子のようなものだと考えて、いまブルターニュの人里離れた屋敷に赴くにも、わびしい地方の、陰鬱で無味乾燥だろうとしか思えない日々をたっぷりと埋めるために、ヘーゲルの著書を運びこもうとしていたのである。(pp.18-19)
プラトンプロティノスライプニッツスピノザの差異というのは微妙だ。