Darwin as a historical scientist(Memo)

承前*1

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

ティーヴン・ジェイ・グールド『ワンダフル・ライフ』からの抜き書きの続き。


一九世紀の偉大な科学哲学者ウィリアム・ヒューエルは、多数の独立した情報源が”そろいもそろって”歴史上の特定のパターンを示唆したときに得られる確信を特別の言葉で呼ぶために、”一致する”という意味のコンシリアンス(符合)*2という言葉をつくった。そして彼は、多岐にわたる情報源から集められた異質な結果を統合させる方策を帰納の符合と呼んだ。
私は、チャールズ・ダーウィンをもっとも偉大な歴史科学者だと思っている。ダーウィンは、信頼にたる進化の証拠を生命の歴史の統合原理として発展させただけでなく、いわゆる科学の方法論とは異なるが厳密さでは変わらない歴史科学の方法論の詳しい説明を、すべての著作(中略)の意図的な中心テーマとして選んだ(Gould, 1986*3 )。ダーウィンは、歴史的な説明を行なうにあたって、論じている主題に関して保存されている情報密度のちがいに応じて、それぞれにふさわしい説明様式を使い分けた(Gould, 1986, pp.60-64)。しかし、いつも中心にすえていた論拠はヒューエルのいう符合だった。生命の秩序の根本をなしているのは進化であるにちがいないということがわかっているのは、発生学、生物地理学、化石記録、痕跡器官分類学類縁関係などが提供する異質なデータを一つに結ぶ説明は進化論以外に存在しないからである。ダーウィンは、科学的な説明としての資格を得るためには原因が直接目撃されなければならないという、広く支持されている未熟な考えをきっぱりと否定した。彼は、歴史的説明のための符合という考えかたを引き合いに出しながら、自然淘汰の正しい検証のしかたについて次のように述べている。

そこでこの仮説は、いくつかの独立した大きな部類に属する事実、たとえば生物の地層中の遷移、過去と現時点の生物の分布、生物相互の類縁と相同性などがこれで説明できるかを試すことで検証できるかもしれない。そして私には、これこそが全疑問を考察する際の唯一公正で正当なやりかたであると思える。そうした大量の事実が自然淘汰の原理で説明できるなら、この原理は受容されるべきである。(1868*4, vo;.1. 657)
(pp.488-489)
ウィリアム・ヒューエルについては、


Wikipedia http://en.wikipedia.org/wiki/William_Whewell
Laura J. Snyder “William Whewell” Stanford Encyclopedia of Philosophy http://plato.stanford.edu/archives/sum2004/entries/whewell/


を取り敢えずマークしておく。ヒューエルはscientistという英単語を発明した人でもあったのだ。これについては、例えば村上陽一郎*5『科学者とは何か』を*6

科学者とは何か (新潮選書)

科学者とは何か (新潮選書)

「歴史」と「偶発性」を巡って;

歴史的な説明は、叙述的に語られる。つまり、説明されるべき現象Eが生じたのは、その前にDが生じ、さらにその前にC、B、Aが生じていたからである。もしEに先行する段階のうちのそれか一つが起こらなかったか、別の起こりかたをしていたとしたら、その場合Eは存在しないことになる(あるいは、実質的に異なる形態をとったEが存在し、別の説明を必要とすることになる)。つまり、AからDまでの結果として、Eは意味をなし、厳密に説明できるのである。しかし、Eという現象が起こることを自然法則が命じたわけではない。別の諸現象が先行したことで生じたE′という変異だって、その形態や結果はひどく異なるものの、同じように説明がつくからである。
私はランダム性を問題にしているのではない。AからDまでがあらかじめ生じた結果として、Eは必然的に生じるからである。歴史的な説明がその基礎を置いているのは、自然法則からの直接的な演繹ではなく、予測のつかないかたちで継起する先行状態である。この場合、一連の先行状態のうちのどれか一つが大きく変わるだけで、最終結果が変更されてしまう。したがって歴史上の最終結果は、それ以前に生じたすべての事態に依存している(偶発的な付随条件としている)わけで、これこそが、ぬぐい去ることのできない決定的な歴史の刻印なのである。(pp.489-490)
そういえば昨日、内井惣七ダーウィンの思想』を読了した。

まえがき


第一章 ビーグル号の航海
第二章 結婚と自然淘汰
第三章 ダーウィンのデモン――進化の見えざる手
第四章 種はなぜ分かれていくのか――分岐の原理
第五章 神を放逐――設計者なしのデザイン
第六章 最後の砦、道徳をどう扱うか


文献

副題は[人間と動物のあいだ」。最初は?だったが、第六章にフォーカスすると、妥当な副題であるとはいえる。
ダーウィンの思想―人間と動物のあいだ (岩波新書)

ダーウィンの思想―人間と動物のあいだ (岩波新書)