数年前に公共図書館からのホームレス排除問題というのが話題になったことがあったのだ*1。
http://d.hatena.ne.jp/i-haruka/20130429/1367202360
4月20日付けの『産経』の記事が引用されている;
そして、古都・京都の玄関口のJR京都駅(京都市下京区)で、新幹線側出口(八条口)の市有地にホームレス1〜2人が居座り、排泄(はいせつ)行為などで迷惑をまき散らしている。清掃を委託されたJR東海が汚物の処理を行っているが、同社の改善要請や利用客からの相次ぐ苦情にも、同市が対策を取れない状態が続いている。場所は駅の構内で、修学旅行生や団体客が集合するスペースと目と鼻の先。多くの観光客が新幹線で京都を訪れる大型連休を前に、年間5千万人が訪れる観光都市のイメージダウンが懸念される。
顔をしかめる悪臭
京都市内で満開を迎えた桜を散らす雨が降った4月2日夜。京都駅の南北自由通路の南端の八条口に面した出入り口付近は鼻を突く悪臭が漂っていた。
雨に流されても、地面からは小便独特の臭いが消えない。壁際にはポリ袋や毛布に体をうずめて高齢の男性が寝そべっていた。そこは修学旅行生や団体客が集合するスペースの、目と鼻の先だ。
京都市によると、男性2人が1年以上前から駅を縦断する南北自由通路下の市有地スペースで生活し始め、壁際で排泄物を垂れ流しているという。関係者によると、食料などを提供する支援者がおり、1人は常時そこで暮らし、たまにもう1人がやってくる。エレベーターの中に小便が入り込むこともあるという。
改善要請にも市の腰は上がらず
同通路は平成9年に京都市と事業者が締結した協定で、市とJR東海、同西日本、京都駅ビル開発が区間ごとに所有し、維持管理している。同市は問題となっている通路南端の八条口に面した市有地部分について、維持管理をJR東海に委託。同社の子会社が清掃のほかエレベーター、エスカレーターの管理も行っている。
現状を放置できないとみたJR東海は「適切な清掃ができず、衛生・安全面で大きな不安が生じている」「南北自由通路の秩序が保てない」とし、昨年6月、京都市に事態の改善を申し入れた。それ以降も同社は、汚れが目立ったり利用客から苦情が寄せられたりするたび、市に対応策を要望。協議も数回重ねたが、いっこうに改善していない。
駅前整備にも影響
JR東海関係者によると、利用客からは「新幹線は日本の誇り。『人権擁護』を理由に浮浪者に寝床を提供し続ける理由はない」という意見も寄せられたという。同関係者は「問題を人権問題として捉えた京都市の福祉担当者が目を背けている」と憤る。
一方、同市の都市整備担当者は「福祉部局も含め協議はしている。JR東海とも連携して対応策を考えたい」としているが、強制退去などの強攻策は、新たな“収容先”をどうするかを含めた人権問題も絡むため及び腰のようだ。
ただ、同じ市有地でバス乗り場に面したフェンスには、他のホームレスのものとみられるキャリーバッグや段ボール箱がチェーンでつながれ、利用客の通行の妨げになっている。
京都市は八条口に面した通りの車線を減らして歩道を拡幅し、南北自由通路の南端に広場を整備するなどの都市計画を策定しており、今年度から工事に着手する。占拠されたスペースも計画に含まれており、難しい判断を迫られそうだ。
(産経ニュース 2013.4.20 12:00)
と述べている。これはもっともな評だと思った。
上記「産経ニュース」はどう読んでも「今すぐホームレスを排除すべき」と読み手を誘導するような書き方です。この記事を読んで、頭をよぎったのは「襲撃されはしないか?」ということです。「迷惑なホームレスを行政が何とかしないなら、自分たちでなんとかしてやろう」という屈折した正義感でホームレスに暴行を加えることで排除しようとする者があらわれないとは限らない。そう考えれば行政が早いうちに住居や施設を用意し保護することが望まれるところですが、ここではホームレス保護の難しさについて考えてみましょう。
さて、この産経の記事で強調されているのは「排泄物」である。今はどうなっているのかわからないけれど、昔銀座の地下道は小便の臭いが満ちていて、特に東銀座方面に歩いて行くのにはちょっとした覚悟が必要だったな、ということを思い出した。育児においてトイレット・トレーニング、お襁褓を取ることが重要な項目であるように、自らの排泄(物)のコントロールは人間の生の基本であるといえる。それが何故「排泄物を垂れ流して」「小便独特の臭いが消えない」という状態になっているのか。理由としては、3つの可能性を推測できるだろう。先ず近くに公衆トイレがないので、仕方なく「垂れ流して」しまう。第二に、(これは現実としてはあまり考えられないだろうけど)「排泄をコントロールする習慣がない。第三には、排泄のコントロール能力が毀損され、〈福島第一〉状態というかダダモレに近い状態になっている。第一の場合だと、対策は公衆トイレへのアクセスの改善である。第二の場合だと、排泄をコントロールするよう躾けるべきだろう。第三の場合であれば、このような場所に放置しておくこと自体が「人権」問題なのであり、早急に医療施設へ保護しなければならないということになるだろう。
ホームレスが保護される時は、恐らく病気にかかったりして誰の目にも衰弱が激しくなったときかもしれません。(生活保護法第7条「・・・要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる」)ただ、ホームレスの襲撃事件が少なくないご時勢を考えると早期に保護することが望ましいことはいうまでもありません。とも述べられているが、「排泄」の自律性が侵されているというのは、QOLが極限近くまで低下している状態といえるだろう。
これも首肯できることだけど、「ホームレス」になるに至った生活史的経緯を追った実証研究があるのかないのかは知らない。
ホームレスがホームレスとなってしまうのは、彼の自尊心の高さや気丈さであり自立心の強さであると考えられます。つまり、「どんなに生活に困っても人に頼ってはならない。また、人に頼ったり生活保護にかかるくらいなら死んだ方がマシ」という考えを持つ人がホームレスには少なからずいるということです。もし彼らに「困ったときは人に助けをもとめたり生活保護を権利として利用すればよい」という考えがあったなら、ホームレスにはならなかったのではないかということです。ホームレスの立場にある人は、日本の社会や社会保障制度が生活困窮者を容易に救済しないことを経験的に知っています。助けを求めて自尊心を傷つけられるのなら助けを求めようとは思わなくなっても当然でしょう。JR京都駅のホームレスも自助努力を続け稼働能力を喪失し行きついた場所がその場所でありそこを最後の居場所と定めたのではないでしょうか。