鈴木涼美「グレイスレス」(『ギフテッド/グレイスレス』*1、pp.111-223)から。
「性欲処理に適した化粧」って?
昔に比べれば比較的自然な化粧が流行しているここ最近であっても、性欲処理に適した化粧は多くの女優にとっては物足りなかったり野暮ったく思えたりするものだ。特にポルノ女優の顔や服装を真似る女性たちが格段に増えてからは、男の射精を促すことだけに特化した顔だと割り切っていられない事情があるらしい。ただポルノ女優が男女両方のものとなっても、ポルノそれ自体は依然として男のものであるし、私は相変わらず男に向けて顔を作り続けている。ただ、どちらにせよ精液や尿や唾液や涙で泥のように流れてしまう化粧について、あれこれと注文する女優や譲れない箇所がある女優を面倒だとはあまり思わない。数十分後に裸になり、身体も性も自尊心も数時間の間は放棄する彼女たちがそれでも明け渡さないものがあるのだとしたら、その片鱗に触れる私は幸運だとすら思う。(pp.199-200)
ちなみに、「ビジュアル系」とか「V系」という言葉ではなく、「化粧バンド」という言葉が使われている。「私が日本に残った主な理由は、当時化粧バンドで歌っていた男と肉体的にも精神的にも結びついていると思い込んでいたからで、いくつかの短期講座と独学で得た化粧の知識は、彼の顔に化粧するために十七の終わり頃から得たものだった」(p.134)。
