猪祭?

瀬川拓郎「王・奴隷・バッファ アイヌ社会における抑圧と友愛の歴史」(in 酒井隆史*1責任編集『グレーバー+ウェングロウ『万物の黎明』を読む』、pp.199-207)から。


縄文時代には、イノシシを一定期間飼養して殺す、アイヌ社会の神送り行事であるクマ祭り*2に酷似するイノシシ祭りが日本列島各地でおこなわれた。この祭りは、北海道や伊豆諸島などイノシシが生息しない地域でも仔イノシシを入手しておこなわれる、土偶祭祀とならぶ列島の縄文社会に普遍的な祭りであった。つまり複雑な地域性をみせる列島の縄文社会は、生態系の差異を超越した祭祀とその思想を共有する世界であり、縄文イデオロギーあるいは縄文アイデンティティによって包括された世界だったのである(瀬川二〇〇九c*3)。
それから、

縄文時代の社会は、サハリンや朝鮮半島など列島外の異文化社会との交流がほとんどみとめられない孤立した状況にあり(水ノ江二〇二二*4)巨大な「身内」の世界、閉じた系であった。したがって縄文時代の物流は、同じアイデンティティを共有する「身内」の贈与に依拠していたのであり、物々交換=商品交換としての交易、さらにそれが継起するヒエラルキーは生じることがなかった――いかなる社会的格差も存在しなかったわけではない――のである。(ibid.)