「リブ」へ - Living, Loving, Thinking, Again

作者:中山千夏
朝日新聞出版

中山千夏『幸子さんと私』*1からのメモ。
中山千夏さんは1970年代初頭、ドラマ『お荷物小荷物』に出演し、脚本家の佐々木守など「大島渚につらなる「政治的芸能者」たち」との交流から、「政治的活動に対する興味」を芽生えさせていった（p,155）。

同じころ、私はウーマンリブ *2、女性解放運動を知った。知ったと言っても、存在を知ったに過ぎない。六〇年末に欧米で勃発したウーマンリブ（略してリブ）は、主として、その著作や活動報道を日本の知識人が翻訳紹介し、それをやはり知識人や学生が読む、というかたちで日本に伝わった。そうして始まった日本のリブを、当時のマスコミは、面白おかしく話題には舌が、まじめに取り上げることはなかった。一般が知ったのはそんなリブであり、知識人ではない私も同様だった。しかし、小沢遼子、吉武輝子、俵萌子など、『お昼のワイドショー』の常連だった「女性評論家」（と当時は呼ばれていた）の話は、それは女にとって大真面目に取り組むべき問題であるらしいことを私に感じさせた。私の機が熟していた、と言ってもいい。（ibid.）

同じ芸能界でも、舞台と違って、テレビは、男社会をむき出しに感じさせる職場だった。スタジオでの人口比が、舞台の楽屋に較べて、はなだしく男優位であるうえに、当時の最先端だったメディアに集う男たちは、高い学歴をひっさげて、出世の最高峰めがけて競い合う戦士たちだった。どの世界でもそうであるように、そうした男たちの女に対する人権意識はきわめて低い。ましてや、七五年の国際婦人年にはまだ数年を待たねばならない時代だ。八五年の国連女性差別撤廃条約に日本も参加して、男女雇用機会均等法が施行され、欧米並みの男女平等を目指すことが国是になるとは、想像もつかない時代だ。テレビ局周辺の男たちの意識たるや、惨澹たるものだった。
幸いにして深刻なセクシャルハラスメントを受けたことはない。むしろ、非常に可愛がられて、ただ酒ただ飯を満喫した。そうされながら、彼らが決して私を同等には思っていない、それは年齢であるよりも性によるものだ、と私は感じていた。（略）「女に社会的な能力はない」「女の利口は男のばかと同等である」「女は男の支えとして生きるのが本分である」などと教えてくれる男には事欠かなかった。それに反発しながらも、おかげで私は自分の性に自信を失いそうになっていた。この時代が、私の生涯で最も憂鬱であることの原因のひとつは、それだった。自分自身の性（性状、人間性）に自身を持たないで、幸福になれる人間はいない。
そんな時、佐々木守たちがもたらした「社会活動への興味」と、小沢遼子たちから得た「ウーマンリブへの興味」とが、一挙に行動につながる機会が訪れた。一九七二年ごろのことだ。リブ運動に身を投じていた同年配の女たちが、「中山千夏」に興味を持って、接触してきたのだ。私は即座に乗った。一九七四年七月二七日、彼女たちとともに開いた第一回「魔女コンサート」は日比谷野音を満員にし、日本リブ史上、画期的なイベントとなった。これが、社会活動へのジャンピング・ボードだった。同年、岩月澄江（のちの麻鳥澄江）たちとともに新宿に「新宿ホーキ屋」を設立。ほんの三年ほどだったが、ここを本拠にした活動から、私は社会と人権について多くを学んだ。七七年出版の『男たちよ！』（話の特集）や『からだノート』（ダイヤモンド社。九七年に増補復刻版『新・からだノート』をネスコから上梓）は、その直接的な成果だった。（pp.155-157）