平野千果子『人種主義の歴史』

途中中断しながら読んでいた、平野千果子『人種主義の歴史』*1を読了したのは今月初めのこと。


序章 人種主義を問う
第一章 「他者」との遭遇――アメリカ世界からアフリカへ
第二章 啓蒙の時代――平等と不平等の揺らぎ
第三章 科学と大衆化の一九世紀――可視化される「優劣」
第四章 ナショナリズムの時代――顕在化する差異と差別
第五章 戦争の二〇世紀に
終章 再生産される人種主義


あとがき
主要参考文献/図版出典一覧

ひとつ、気づいたことを記しておくと、「人種主義」とヨーロッパにおける階級(貴族)制度との関係がオミットされているなと思った。「人種」よりも「階級」と訳すのが妥当な意味合いでraceという言葉が使われていたことはけっこうあったのではないか。貴族たちは平民たちとは違う〈血〉が流れていると信じており(所謂blue blood)、階級差別の正当化された起源としての征服伝説とも相俟って、異なった階級は異なった民族に容易に重ね合わされた。また、その図式は市民革命以後も位階顛倒を伴いながら引き継がれた。仏蘭西の場合だと、貴族(ゲルマン)と平民(ケルト)の位置は逆転したものの、ゲルマン/ケルトという図式は生き残った。こうした前近代的な国内的レイシズムと近代以降のグローバルな文脈での「人種主義」との関係が説明されていれば、最後の方になって、日本の「部落差別」が言及されるときに感じた唐突感は生まれなかったように思う(pp.238-240)。