青い抱一

冨田章「削ぎ落す美」『Tokyoエキマチ』(東京ステーションシティ運営協議会)46、p.11、2022


静嘉堂文庫美術館『初春を祝う――七福うさぎがやってくる!』*1で展示されている酒井抱一*2「富士山」(『絵手鑑』のうち)について。


日本美術の特徴のひとつは装飾性である。ただ装飾性には、飾り立てた装飾性と削ぎ落した装飾性の2種類がある。この作品は明らかに後者。富士山と朝日と霞だけがすっきりした構図にまとめられている。色彩も紺青・朱・白・金の4色のみ。(略)個々のモチーフの配置と配色だけが命の作品で、その結果は完璧だ。どの線も1ミリずらしただけでバランスが台無しになるだろう。
先ず視覚に入ってくるのは空(紺青)。これは視線が富士山や霞に移った後でも、残像として脳内に残り続ける。これがショックだった。抱一といえば銀だろうという勝手な偏見があったので。