伝染する「木版画」

高橋咲子*1「#「普通」をほどく 木版画×社会運動」『毎日新聞』2022年7月24日


「共同制作された木版画が社会問題とかかわるためのツールとして活用されている」。「制作者である、木版画コレクティブと呼ばれる協働集団の水脈は、アジアを中心に現在進行形で世界に広がっているらしい」。
新宿の「コレクティブ」、A3BC*2について。


刷るのは、紙ではなく布が多い。成田さん*3いわく「路上に持ち出せる」から。美術館などで展示するだけでなく、デモで”使える”ツールにする。横長に刷られた「沖縄鳥獣戯画」(15年)は、「沖縄連帯バナー」として、辺野古や高江で米軍基地やヘリパッドの建設反対運動をしている人たちに贈られた。辺野古のテントに飾られたバナーは、運動を妨害する右翼団体にナイフで切られたが、縫い合わされ再掲された。メンバーも辺野古を訪れて一緒に版画で抗議プラカード作り、新宿駅前でこのバナーを掲げ、建設反対のスタンディングアピールをしたという。
作品は、社会活動の手段でもある。「とはいえ」と、現代アートやメディア文化の研究者でもある狩野さん*4が付け加える。「審美的なこだわりがないわけでない。格好良く完成すればとてもうれしいんです」

(前略)まずテーマを決め、どんなモチーフを入れるか打ち合わせし、江を持ち寄って話し合い下絵を構成する。世紀の美術教育を受けた人はおらず、主導者がいるわけではない。直線や曲線、あるいは細かい部分……。付き合ううちに見えてきた、それぞれの得意分野を生かしてみんなで彫っていく。ショップには海外の人も訪れるといい、飛び入りも大歓迎だ。旧来の組織にありがちなヒエラルキーはなく、ゆるやかにつながるのが原題のコレクティブの特徴だ。

結成のきっかけは、タリン・パティ(インドネシア)やパンクロック・スゥラップ(マレーシア)など、東南アジアの木版画コレクティブの存在だった。地域の政治・社会的課題と向き合い、パンクバンドに源流があるDIY(自分でやる)精神も持ち合わせている。パンク音楽を通じて知ったリョクさんは「『買わないで作れ』という言葉が響いた」と話す。東南アジアだけでなく欧米圏のコレクティブとも交流し、それぞれの作品を展示し、ワークショップに参加し合うこともある。
A3BCに触発された香港の「點印社」と台北の「印刻部」。