喪失を癒やすために

大野友喜子「流産の喪失感 癒やすには」『毎日新聞』2022年5月27日


自らも「流産」と「子宮外妊娠」を経験し、「流産などを経験した人を支援する活動をしている」フォックス聡子さん*1について。


乳腺の画僧診断を専門とする放射線科医のフォックスさんは、カリフォルニア州サンノゼで夫と2歳半の長女と暮らしている。
2020年10月、38歳の時に第2子を妊娠したが、初めての妊婦健診で胎児の心拍が確認できないことが分かった。稽留流産(子宮内で胎児が死亡したにもかかわらず、出血などの流産症状を示さずに数週以上も子宮内にとどまった状態)だった。米国で承認されている経口中絶薬を服用する薬物療法を医師に勧められ、受け入れた。「3日間、とにかく泣き続けました。4日目になると泣く以外のことができるようになり、『この先どうするんだろう』と考えるようになりました」

20年12月、再び妊娠したが、子宮外妊娠だった。医師に「この妊娠は継続できません」と告げられ、即日手術した。術後すぐに退院し、しばらくは腹部の痛みと格闘した。数日たって痛みが徐々に和らぐと、今度は気持ちが落ち込んだ。「またしても赤ちゃんを亡くし、その上上右卵管までも失い、『どうして私ばかりこんな目に遭うのだろう』と思い詰めました」
このとき、友人の紹介で、「グリーフケア*2を受け、「グリーフケア」が「流産という経験にも適用される」ということに気づいた。

その年*3の3月、再び妊娠が分かった。「三度目の正直」と家族や友人たちと喜びを分かち合ったが、妊娠7週の超音波検査で、、再び稽留流産と診断された。
「人生で一番落ち込み、うつ状態のようになった」といい、何も手につかず、仕事を休んだ。それでも、朝に散歩をして大洋を浴びるように心がけ、家の掃除をするなどして過ごすうちに、徐々に心が回復していったという。
フォックスさんは「自身がそうだったように、流産後に起こる反応や心の状態について知らない人が多いのだろうと想像する」。

医師からの説明はなく、唯一心のケアに言及していたのは、薬剤師からもらった投薬説明書だった。「2週間たって気持ちが落ち込むようだったら、セラピストに連絡するように」という一文が、さらっと書かれていた。
医師として、医療従事者の忙しさは理解している。そえでも、可能な範囲で患者の心のケアに関与してほしいと願っている。「医師や看護師が一人一人の患者の退院後に手厚いサポートをすることは難しいでしょう。ただ、退院する際に、今後起こるだろう反応やグリーフケアというものがあるということを一言でも伝えれば、より多くの人が救われるはず」。