「ヒアリの先達」

五箇公一*1ヒアリの先達 広がる侵入」『毎日新聞』2022年4月28日


アルゼンチンアリが伊丹空港敷地内に定着していることが2022年4月初めに報道された*2。しかし、アルゼンチンアリは同じ南米原産の火蟻*3よりもかなり以前に日本侵入を果たしている。1993年に広島県廿日市市で初めて発見され、「これまで東京、大阪など13都道府県で分布が確認されている」。


体長は働きアリでわずか2~3ミリほど。原産地は名前の通り南米で、主にアルゼンチン、ウルグアイパラグアイなどに自然分布する。日本のアリのようんい定位置に深い巣穴を作るのではなく、岩陰や落ち葉、朽ち木の下などに浅い巣を形成し、河川の氾濫など、異常事態が発生したら、すぐに巣ごと移動するという性質をもっている。
また、一つの巣に複数の女王が同居し、多数の働きアリをシェアして大家族を形成する。この大家族は数珠つなぎ状態で分布を広げ、「スーパーコロニー」という巨大な集団となる。広い範囲で餌となる資源を独占し、他のアリ類や小動物を排除する。
もっとも、アルゼンチンアリのスーパーコロニーが威力を発揮するのは侵入先の新天地だ。原産地では競争相手や天敵となる強豪のアリ類が生息するため、むしろひっそりと生活しているらしい。

日本には、海外からの貨物に紛れて侵入してきたとと考えられ、自動車やゴミなどに巣ごと潜り込み、それらの移動に便乗して、国内各地に拡散した。自然の森よりも、住宅街や畑地など人為的に改変された環境を好み、コンクリートの割れ目や公園樹木などに営巣して猛烈な勢いで増え続ける。人間の身近なところで増えるため、私たちの生活にも直接影響を及ぼす。
このアリはヒアリと違い、人間を刺すような強い毒針は持たない。しかし、人家に侵入してきて巣を作ったり、人間の食べ物をあさったりという迷惑行為をする。