「レトリック」は復権した?

村上陽一郎*1「比喩とレトリックで描く科学的考察」『毎日新聞』2022年1月8日


杉山慎『南極の氷に何が起きているか』の書評。


A・ゴアの「不都合な真実」とともに、南極の氷の壁が崩れ落ちろ映像を、私たちは繰り返し見せられてきた。それは地球温暖化を印象付ける象徴として、全世界に拡散することにもなった。本書を読むと、そこには単なる印象ではなく、より深刻な事実として、今南極の大地を覆う巨大な氷の塊に、不可逆的とも言える変化が起こり続けていることを知らされる。昨年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎、共同受賞者のクラウス・ハッセルマンの両氏は、ともにこの極地での気候変動の理解に、理論・実際の両面で画期的な業績を積まれた研究者である。今世紀に入って、本格的な新成果が続々と得られており、しかも、この大域的な対象に関して、実にミリ単位での科学的に精密な理解が進んでいるらしい。本書は、その最前線の成果を、判り易い比喩とレトリックで描いた、出色の解説と言える。
この本は「地球上の水」についての重要な基礎的知見を齎してくれそうな本なのだけど、村上先生の謂う「判り易い比喩とレトリック」とは例えばこういうことだろうか。

(前略)第三章以降では、地殻の微妙な運動をはじめとする、極めて複雑なメカニズムの詳細を扱っている。あの、極地に鎮座する巨大な氷塊が、まるで、ガラス細工のように、細やかな仕組みの上に長い年月支えられて生きてきた、生き物のようにさえ感じられる。
ところで、最近、故佐藤信夫先生*2の「レトリック」論(例えば『レトリック感覚』)が再び注目されているのだろうか(例えば、磯野真穂『他者と生きる』)?