慣用句


アレントの”Organized Guilt and Universal Responsibility” (in Essays in Understanding 1930 – 1954)の”Upon them and only upon them, who are filled with a genuine fear of the inescapable guilt of the human race, can there be any reliance when it comes to fighting fearlessly, uncompromisingly, everywhere against the incalculable evil that men are capable of bringing about.” というセンテンスについて、


(前略)「信頼」は原文ではrelianceだけど、「信頼」と言っても、倫理的な意味というより機能的な意味合いが強い。だから、「 人類が犯しうる逃れがたい罪に対して正真正銘の恐れをいだく人びとだけが頼りになる」、或いは「人類が犯しうる逃れがたい罪に対して正真正銘の恐れをいだく人びとだけが有用である」とした方が分かりやすいのかも知れない。その前に、”Such persons will not serve very well as functionaries of vengeance.”というセンテンスがある。「人間がもつ潜在的な悪の可能性」を「自覚」するような人は「復讐[というプロジェクト]の構成員としては大して役に立たない」。多分、これと二項対立のペアになっている。話を最後のセンテンスに戻すと、” it comes to fighting fearlessly”のitって何を指しているのか? と思った。やはり、齋藤氏がそうしているように、非人称構文と解して、to以下を指していると考えるべきなのだろう。
と書いた。
これに対して、

id:redkitty

it comes to fighting fearlesslyですけど、~についていえば、とか、~という話になれば、とか、慣用句ではないでしょうか。itは強いて言えば、非人称のitのうち環境のitと言われるものではないか、と思います。
書かれていること、取り違えていたらごめんなさい。

というご指摘を頂いた。
調べてみると、when it comes toという慣用句がありました*1


★「△のことになると(なれば)」
  《 △は「名詞」または「動名詞」 》
例文
★ When it comes to women, he talks much.
   女のこととなると、彼はよくしゃべる。

★ When it comes to speaking English, you can't beat her.
  英語を話すことになれば、あなたは彼女にかなわないよ。
● 「when」の代わりに「if」を使うことがあります。

● 不定詞ではなく動名詞になります。←ココが狙われます。
http://astrohouse.opal.ne.jp/idpwcheck/3_jundo1/data/exp/e34.htm

そうか! 最初、”fighting fearlessly, uncompromisingly, everywhere against the incalculable evil that men are capable of bringing about”という事態が出来するとき、と解して、ならば、itは”fighting fearlessly, uncompromisingly, everywhere against the incalculable evil that men are capable of bringing about”を指しているんじゃないだろうかと思ったのですが、ちょっと違いました。何というか、発話のトピックのフォーカスが”fighting fearlessly, uncompromisingly, everywhere against the incalculable evil that men are capable of bringing about”に移動するという感じでしょうか。とすると、齋藤純一氏の訳文は「人類が犯しうる逃れがたい罪に対して正真正銘の恐れをいだく人びと、そのような人びとだけに、人間が惹き起しうるはかりしれない悪に抗して、あらゆるところで妥協せずに敢然と闘わなければならぬ局面が訪れるとき、ひとは信頼をおくことができるのである」ですけど、「人間が惹き起しうるはかりしれない悪に抗して、あらゆるところで妥協せずに敢然と闘うというのなら、人類が犯しうる逃れがたい罪に対して正真正銘の恐れをいだく人びと、そのような人びとだけが頼りになり得るのである」とした方がいいのだろうか?
また、「環境のit」ですが、或る解説によると、

3.環境のit
 環境のitは、非人称のitのように特に受けるものがありませんが、話し手と聞き手の間でわかっている漠然とした状況を受けます。
 a. It was quiet everywhere.
 (どこも静かでした。)
 b. It is all the same to me.
 (私には一向に構わないです。)
 c. It is your turn.
 (あなたの番です。)

 環境のitは、目的語や補語の位置に置かれる使い方もあります。
 a. Take it easy.
 (落ち着いてやりなさい。)
 b. That's it.
 (それです。/それが問題です。)
(「代名詞のitの種類」https://www.englishcafe.jp/answer/and-2g.html