「水の国」

八百板洋子「水の国で出会った昔話」『あのね』(福音館書店宣伝課)355、2022


そうなのか!


ベルコーヴィッツァの町は、広場も時計台も、行動浴場まで大理石でき、至る床尾から鉱泉が湧きでていました。ブルガリアは水がゆたかで、首都の街かどにも水くみ場があり、そのまま飲めましたが、このうす紅の大理石にうずもれた町の水は、浸みとおるような清涼感がありました。かつて、炎天下のもと、山みちを登っていたときにめぐりあった湧き水とおなじ若やいだ草の香りがしました。ブルガリアはバラの国ちょいわれますが、はるか昔より、水の国でもあったのかもしれません。
ブルガリアといえば、ヨーグルトの国*1、或いはヴァンパイアの国*2という印象を持つ人が(私を含めて)多いのでは?
『いのちの水』(八百板洋子再話、ベネガン・バルカノフ絵)について;

ブルガリアの昔話との出会いは、一九七〇年代、まだ、わたしがソフィア大学の学生だった頃です。友人のヴォルガの家がバルカン山脈の山あいの町、ベルコーヴィッツァにあったので、誘われて冬や夏の休暇をすごしました。『いのちの水』は、そのとき、そこで、ヴォルガのおばあさんが近所のおばあさんたちと糸つむぎをしながら語ってくれた話の一つです。留学二年目で、長い昔話の語りを聴きとれる力もなく、ただ話の大筋がつかめただけでしたが、ふしぎな話だと記憶に残りました。
その後、帰国して松谷みよ子さんたちと共に東北の民話を採訪し、採録のしかたを学び六年後にふたたびベルコーヴィッツァの町を訪れました。この『いのちの水』は。その時の語りをテープに録音し、国立民俗博物館のターニャに手伝ってもらって文字におこし、翻訳・再話したものをもとにしています。本からではなく、語り手から聴きとったものを絵本にしたのは初めてです。