「分断」の構図(葉真中顕)

須藤唯哉*1「信じる情報で分断される人々」『毎日新聞』2021年12月4日


葉真中顕*2『灼熱』について。


沖縄生まれの比嘉勇は、親族と養子縁組し、大日本帝国の移民政策によってブラジルへと渡る。新天地の村で移民2世の南雲トキオと出会い、友情を深める。しかし、祖国日本の戦況の悪化に伴って、南雲家が栽培するハッカが敵性産業とされたトキオは村を去る。戦争が終わると、都会で暮らすトキオは「日本が負けた」と知り、村に残った勇は「日本が勝った」と聞かされる。二人は「認識派(負け組)」と「戦勝派(勝ち組)」に分かたれ、その対立に身を投じていく。

物語の舞台は遠い過去だが、信じる情報が違うことで分断される人々は、現代社会と重なって見える。執筆中だった今年1月*3には、トランプ大統領(当時)の支持者たちが米連邦議会に乱入し、死者も出た*4。世界を覆い尽くす新型コロナウイルスのワクチン接種を巡っても、対立が絶えない。「昔より現代の方が情報環境が整っていても、自分たちに都合の悪い情報をデマだといって切り捨てていったら、同じことが起きる。執筆当初は遠い話だと思っていたのが、現代でも起こる話にテーマが近づいていった。それだけ今、この作品を発表する意味は重くなった」と考える。
因みに、伯剌西爾日系移民の抗争についてはじめて詳しく知ったのは、前山隆『移民の日本回帰運動』*5