ヤマアザラシ

鎌田實「一人時間を「ソロ立ち」で」『毎日新聞』2022年1月10日


最初の方で「ヤマアラシのジレンマ」が言及されている。


(前略)背中に太いとげを持つヤマアラシは、寒いと固まって過ごす習性があるのだが、くっつきすぎると自分の針で相手を傷つけてしまう。やむなく離れると今度は寒くてたまらない。

それぞれが「個」として自立し、絶妙な距離感をもつことができれば、そのジレンマは解消できるのではないだろうか。個として立つこと、ぼくは「ソロ立ち」という言葉を作った。
ソロで立つことができれば、自主性が高まり、自分の価値観がはっきりしてきて自己肯定感が強まる。(略)
そんなことを大人の読者に向けて訴えるのは、大人でも自立したふるまいをしているとは限らないからだ。特に、病気や死と対峙することが多くなる人生の後半戦では、治療の選択など、自己決定の場面がたくさん出てくる。大事なことを医師任せ、子ども任せにしてしまい、後悔することも少なくないのだ。
今は家族に囲まれて暮らしている人も、人生の最後の最後は一人になっている可能性もある。そのとき慌てないためにも、そして、自分の人生を自分で決めるためにも、ソロ立ちを意識することが大切だと思う。

京都旅行をしたある夫婦は、それぞれ別行動で旅を楽しんだ。駅で解散し、妻は買い物、夫は大好きなお寺巡りをした。昼に合流してランチを食べた後、再び解散して妻は美術館へ、夫はお寺巡りの続き。夜はホテルでそれぞれの一日を語り合ったという。すてきな関係だなと思った。
ヤマアラシのジレンマ」は1980年代に小此木啓吾*1が紹介していたのだが、私はけっこうの期間、〈ヤマアザラシのジレンマ〉だと思っていた。ヤマアザラシっていったいどんな動物なのか、自分でも全然わからない。