関西弁の勝利

鶴橋康夫演出のドラマ『女系家族*1について書いている方がいて、「原作を現代にするのに無理があったな」とのことなのだけど*2、自分たちが時代錯誤だということはドラマの登場人物たちにも自覚があるわけだし、私としては、このドラマは詳しく言えば船場言葉というのだろうか、関西弁の勝利ということに尽きるのではないかと思った。2005年のTBS版『女系家族*3と比べると。2005年版は舞台が東京に移されてしまったので、当然ながら誰も関西弁を喋らない。ただ、「 原作を現代にするのに無理があったな」ということは共有している。

Wikipedia*4を参照して、2005年版と2021年版のキャストを対照してみる;


浜田文乃
米倉涼子宮沢りえ

矢島勝代
高島礼子寺島しのぶ

矢島千寿
瀬戸朝香水川あさみ

矢島雛子
香椎由宇山本美月

矢島良吉
沢村一樹長谷川朝晴

矢島嘉蔵
森本レオ役所広司

矢島芳子
浅田美代子渡辺えり

大野宇市
橋爪功奥田瑛二

小林君枝
伊佐山ひろ子余貴美子

梅村芳三郎
高橋克典伊藤英明


役者としては甲乙をつけがたいところだけど、2021年版の特色の一つは「矢島芳子」の突出だろう。それは渡辺えりという女優ぬきにはあり得なかった。寺島しのぶは言っている;


◆芳子役の渡辺えりさんとの掛け合いも、見応えがありそうですね。

これまで映像化された『女系家族』では、ここまで叔母さんは前に出てこなかったんじゃないですかね。以前のドラマでは、(芳子を)浅田美代子さんが演じられていました。だから最初、えりさんは「私は浅田美代子さんを意識して演じる」とおっしゃっていたんです。でもいざ現場に入ったら、言っていることとやっていることが全然違うんです。三姉妹よりも存在感が大きくて、全部持っていっちゃう(笑)。あのパワーは素晴らしいですね。


◆さすが渡辺さんですね(笑)。

特に稽古中は、散々笑わせてもらいました。えりさんはやり切る方なので、鶴橋監督もお手上げ状態(笑)。姉妹が主役の話なのに、叔母さんが一番前に出てくるという(笑)。でも叔母さんも、女系家族の中にいて“男に負けず、女が出なきゃ!”というところを読み込んでいるから“我がが、我がが”となるんですよね。だから、すごく説得力があるんです。三姉妹も“我がが、我がが”という感じだから、矢島家に帰ると常にギスギスした空気が漂っているんですけど(笑)。
(林桃「寺島しのぶ女系家族』で宮沢りえと激突! 自身は歌舞伎役者の家に生まれて「“なぜウチは…”と思ったこともありました」」https://news.yahoo.co.jp/articles/e9f2714c2993c15c60dd3223dae78110f443c8d1

「小林君枝」役ということではやはり伊佐山ひろ子だろうか。滲み出るような存在のエロさということでは余貴美子は及ばない。また、2005年版にはないキャラとして、「浜田文乃」の近所の薬屋である「出目金」というのがいて、山村紅葉が演じている。小さな役だけど、これはなかなかよかった。
2021年版では「大野宇市」は語り手も務めている。私たちが目にする映像や物語は「大野宇市」=奥田瑛二の主観を経由しているわけだ。それはいいのだけど、最後の最後で物語から逃げてしまっているような気がする。
「矢島嘉蔵」の所有する不動産として、場末のぼろいビルが出てくるけれど、これなんか、大阪人なら、あそこか! とぴんと来るのだろうな、と思った。また、妾宅、「浜田文乃」の家のトポスとか。

女系家族は言うまでもなく山崎豊子原作。山崎豊子の物語は読んだことがなく、映像を通じてしか知らないのだけど*5、天下国家が問題になる後期の作品になると、関西弁が後退して標準語が突出してくる気がするのだけど、如何だろうか。(唐沢寿明版)『白い巨塔』では、「浪速大学」関係者は標準語を喋り、「財前又一」(西田敏行)などの地元人は(当然ながら)大阪弁を喋っている*6。『不毛地帯』では「大門社長」(原田芳雄*7以外は殆ど誰も関西弁を喋らない。