定義困難性

金田耕一「リベラリズムの展開」in 川崎修、杉田敦編『現代政治理論 新版』、pp.47-74


リベラリズム」(自由主義)とは何かということを一義的に定義することは難しい;


私たちが一般にリベラリズム(liberalism)とよんでいる理論は、特定の思想家によって考え出されたものではない。それは、ときには対立する立場にある人々が、リベラルな政治を解釈することによって提出した原理や理念から組み立てられてきた歴史的構築物である。したがって、それは必ずしも体系的な理論ではなく、明快な定義を与えることは困難である。しかし、広くリベラリズムとよばれるよばれる構築物に共通する特徴として、個人の自由あるいは自律性を尊重する個人主義の理念に基づいて、絶対的権威や権力を拒絶する思想であるということができるだろう。個人の生命や財産を保障し、信仰や思想の自由を守り、権力を分立することなどを通じてこの思想は実現される。しかし、その具体的な方法はきわめて多様である。
リベラリズムの政治理論がこれほど複雑で多様なものである理由の一つは、リベラリズムがそれぞれの時代の要求に応えて変容し続けてきたことである。このことは、リベラリズムがきわめて柔軟な理論であることを示しているが、それだけに時代的制約を受けやすい理論であるということでもできる。19世紀イギリスに成立したリベラリズムは、新興ブルジョワジーの台頭、労働者階級の窮乏化と社会問題の発生、大衆社会の到来、そして20世紀の二つの戦争と「全体主義」体制の出現といった事態を通じて、大きく転換することを余儀なくされたのである。(p.48)