「弓道」は廃れない

ちょっと前に魚住孝至『武道』(日本の伝統文化6)(山川出版社、2021)を図書館から借り出した。


はじめに


序章 武道文化の成立基盤 先史から古代・中世
第一章 武芸流派の確立 戦国時代から江戸中期
第二章 近世社会の変容と武芸の新傾向 江戸後期から幕末
第三章 近代武道の成立と定着 明治時代
第四章 近代武道の展開過程 大正・昭和初期
第五章 現代武道の出発 昭和中期
第六章 現代武道の展開と国際化 昭和後期
第七章 グローバル時代における武道 平成時代から現在へ
終章 伝統文化としての武道の可能性


主要参考文献
写真提供一覧
武道館計略年表
人名索引

先史時代から現代(令和年間)に至る日本の「武道」(武藝)の通史。
さて、「平成」に入って、各「武道」は実践者の急激な減少に直面している*1。そもそも「武道」の実践者数の産出自体が難しいのだが、本書では「全国高等学校体育連盟」が発表した「部活動の人数」が参照されている(p.326ff.)。それによると、男子柔道は「ピーク時」の1984年には5万9273人だったが、2018年には1万5116人。男子剣道は1984年の5万5671人から、2018年には2万5466人に減っている。その一方で、男子弓道は「ピーク時」の1990年の3万1830人に対して、2018年では3万1169人(p.327)。殆ど減っていないことになる。
魚住氏は「武道人口の減少」一般について、以下のように述べている;

ピーク時の1980年代半ばから90年代前半には、大勢の子供たちが、少年時代に武道を始めて、中学、高校と部活動で武道を続けて、会社に就職するという流れがあった。けれども1980年代から子供たちが外で群れて遊ぶことが少なくなった。いじめが増えたこと、テレビゲームの普及、塾や習い事に通うことが多くなったことなども重なって、遊びが室内で個人化する傾向が強まった。
一九九〇年代からは、少子化傾向が顕著になってくる上に、携帯音楽プレーヤー、携帯電話、さらにスマホへという情報機器の発達も上記の個人化の傾向を後押しした。一九九三年のサッカーJリーグ開幕前後から、サッカーブームがあり、少年サッカーのスポーツクラブも盛んとなった。限られたパイの中で、スイミング、野球、サッカーなどのように、武道の魅力をアピールできなかったことが、少年の武道人口が減少していったことの主因だろう。(pp.328-329)
この歴史認識の是非はここでは問わないけれど、その矛盾に突っ込むことは可能だろう。例えば、「個人化」が挙げられているけれど、「武道」は基本的には個人競技なのに対して、「ブーム」を起こしたという「サッカー」は団体競技である。
また、「弓道」については、以下のように述べられている;

他方、高校の武道人口でも弓道がピーク時と変わらずに三万人を維持していることが注目される。投げたり、打ち合ったりせずに、個人で集中して行う。道場や道具からして特別なもので伝統が感じられる。礼法が厳しく、精神の緊張が必要となる。年輩になってからも続けられ、高齢からも始められる。高校の部活動でも弓道経験者でないと指導は難しく、学校でも教員がいなければ、外部から指導者が招聘される。道場では礼法も指導される。その点で、伝統的な武道の指導が受け継がれている点が多いと思われる。(p.330)

*1:「武道人口」の「ピーク」は1980年代中頃。