「モデル小説」

須藤唯哉*1「事実と小説との曖昧な境目」『毎日新聞』2021年3月6日


恩田陸*2の『灰の劇場』は「モデル小説」。


1994年4月30日付朝刊が、45歳と44歳の女性二人が東京・奥多摩の橋から飛び降り自殺したことを報じた。その後、二人は私大時代の同級生で、大田区のマンションで同居していたことが続報されている。「最初は二人の間にどんなことがあったのか、いろんなバージョンを並べて書こうと構想したが、実際に書き始めたら二人に対する興味よりも、この記事に引っかかった自分の方に興味があると気づいた」と明かす。
本作では「女性二人」「作家の『私』」、さらに「自作の舞台化を控えた作家の『私』」の三つのパートが交互に展開される。やがて、作中で描かれる虚実が、ない交ぜになっていく。

事実とは何かを、ずっと考えながら書いていたという。
「小説とドキュメントの境目は、本当に曖昧なものだと思いましたね」。自身は今年で作家生活30年を迎え、虚構の世界を作り上げてきた。「結局フィクションとドキュメンタリーは、たいして変わらないんじゃないって思う。フィクションだからこそ書ける真実があると思います」