追いつくのは?

本村凌二*1「創造の星雲 中心であり続けた」『毎日新聞』2021年5月15日


河尻亭一『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』の書評。


「タイムレス」という表題はなぜか心魅かれるものがある。二千年前の古代史を専門にする評者は、現代はどこかタイムレスであってほしいのだ。悠久の彼方にある古代世界を見つめているのだから、時勢や流行に煩わされたくない。
だが、この世の最先端を駆け抜けていった石岡瑛子にとっては、流行に左右されず、それを超えた地平に生きるという意味でタイムレスであったのではないだろうか。時流が彼女についてくることはあっても、彼女が時流を追いかけることはありえなかった。

複雑化する現代社会のなかで共同作業を通して強靭な「私」を貫く。そこにタイムレスの独自性があり、まさに「未来の黙示録」でもあり、時代はやっと瑛子に追いつこうとしているのだ。