「遠心力」(メモ)

住友文彦*1「遠心力で世界を描く」『毎日新聞』2020年10月11日


昨年の「ヨコハマトリエンナーレ*2についての記事。
少しメモ。


今回の芸術監督はインドの男女3人組、ラクス・メディア・コレクティヴである。作家として多彩な活動をおこなっており、横浜でも独特の方法で企画準備を進めた。まず、発想の源として「ソースブック」と呼ぶ複数の書物や文章を選び、それを参加作家と共有する手法が面白い。また、準備の過程で何度かイベントや話し合いを設定し、それらは「エピソード」と名付けた。この企画過程で彼らが眼を向けた対象や場所は、ともすると忘れ去られる周縁的な存在が多い。壁に展示された解説文も説明的ではなく、詩的な文章が断片的に書かれ、鑑賞者による解釈の幅を拡張させる。明確なテーマやメッセージを示さない代わりに、参加作家や、鑑賞者にも解釈の自由度を与えているのが大きな特徴だ。

見知らぬ土地で生きる彼女たちのことを、私たちは横浜で想像する*3。自分だけでなく他人を思いやることが、災厄を乗り越えるためには不可欠だ。今回の展示は求心力ではなく遠心力によって多中心的な世界を描くのが特徴だ。眼の前の出来事だけでない、普段見過ごしているものに気付き、知らないことに向き合う。そのような機会を提供できるのが、大規模な国際展の魅力であると再確認した気がする。

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/02/21/105142 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/08/27/112200

*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/08/09/095007

*3:ラヒマ・ガンボの作品は、ボコ・ハラムによって拉致された経験を持つサヴァイヴァーの少女たちをテーマにしている。