梅津時比古*1「世界の傷が現れる 庄司紗矢香のバルトーク」『毎日新聞』2021年1月17日
少し切り取る;
(前略)戦下の1940年にバルトークがナチス占領下の母国ハンガリーからアメリカに亡命したときのこと。ニューヨークに暮らし始めたある日、家のネコが居なくなったと家人やその友人が騒いでいると、バルトークがネコの鳴き声が聞こえる、と真夜中、皆をかなり離れた森の中へ連れて行った。バルトーク以外には誰にも聞こえなかった鳴き声が、森の中の大きな木に近づくと、皆に聞こえた。高い木のてっぺんにネコは登っていた。バルトークはその木の下の枯葉の堆積を手で掘っている。