「小説とは」(方方)

武漢日記:封鎖下60日の魂の記録

武漢日記:封鎖下60日の魂の記録

  • 作者:方方
  • 発売日: 2020/09/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

方方『武漢日記』(飯塚容、渡辺新一訳)*1から;


(前略)小説とは落伍者、孤独者、寂しがり屋に、いつも寄り添うものだ。ともに歩き、援助の手を差し伸べる。小説は広い視野を持って、思いやりと心配りを表現する。ときには、雌鳥のように、歴史に見捨てられた事柄や、社会に冷遇された声明を庇護する。彼らに伴走し、温もりを与え、鼓舞する。あるいは、こうも言える。小説自体が、彼らと同じ運命にある世界を表現することもあり、彼らの伴走、温もり、援助が必要なのだ。この世の強者や勝者は普通、文学など意に介さない。彼らの多くは、文学を単なる装飾品、首にかける花輪のようなものと見なしている。だが弱者たちは普通、小説を自己の命の中の灯火、溺れかかったときにすがる小枝、死にかけたときの命の恩人などと捉えている。なぜなら、そんなとき、小説だけが教えてくれるからだ。落伍してもかまわない。多くの人があなたと同じなのだ。あなた一人だけが孤独で寂しいのではないし、あなた一人だけが苦しく困難なのではない。また、あなた一人だけが気をもみ、くじけそうになっているのではない。人が生きるのには多くの道がある。成功するのに越したことはないが、成功しなくても悪くはない。(p.103)