長調/単調、メタル/ジャズ/プログレ(メモ)

或る知人に教えてもらって、ジャズ・ピアニストの西山瞳さん*1がディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」ディープ・パープル*2のカヴァーを聴いた。凄い! 跡形もなくジャズになってる! と思った。


ところで、この西山さんの文章が面白い。例えば、「神聖なクリスマス曲の悪魔的メタル・カヴァー! そのアレンジの妙を音楽的に考察」*3に曰く、

クリスマス・ソングは、メジャー・キーの曲が圧倒的に多いです。それは、賛美歌やクリスマス・キャロルなど、当然ですがキリスト教と結びついているから。

そもそも、メジャー・キー(長調=明るい)とマイナー・キー(短調=暗い)という西洋音楽の大前提はキリスト教文化圏で生まれたもので、長調キリスト教世界の三位一体の〈調和〉を表し、神、絶対的安定、救い、安心を感じさせる、自然倍音黄金比で出来ているものです。
それに対する短調は、同じ主音を持ちながら対極にあるもの――非調和、死、不安、悪魔などを感じさせる表現として、機能していました。神と悪魔という二元的な考えがなければ、このような長調短調という表現は生まれなかったとも言われます。
実際、世界各地のローカルな音律に、明確に長調短調に分けられるシステムを持つものは無いと思います。

メタルは圧倒的にマイナー・キー(短調=暗い)が多い理由は、そういうことなんです。悪魔、死、不安を表現しようとすると、マイナー・キーになってしまうんですね。〈DEATH〉とか〈KILL〉とか歌っているのにメジャー・キーだったら、おかしいですよね。ニコニコしながら「You Shall Die Before I Die !」(連載第15回の記事参照*4)とか言われたら、マジで怖いですが。

基督教原理主義的な歌詞を歌う「クリスチャン・メタル」というのがあるけれど、かつて学園祭からの「メタル」の追放を宣言して物議を醸したことがある青山学院大学*5は宗教的には正しかったのか!
さて、ヘヴィ・メタルだけでなくプログレッシヴ・ロックもカヴァーしてほしいというリクエストもあるけれど、プログレのカヴァーはしないという。何故か;

そもそも、プログレとジャズは、演奏に対する考え方がだいぶ違うと思うんですよ。

サウンドは似ているかもしれないし、ハーモニーやリズムが複雑でジャズっぽく聴こえるものもあり、インストゥルメンタルで複雑でどんどん景色が変わっていくという面では、ジャズと非常に親和性が高く聴こえると思います。

しかし、根本的に違うのが、
〈ジャズは1の要素を100にして演奏、プログレは100の要素を100以上で演奏する〉ということです。

プログレは一曲の持つ要素の数が多すぎて、しかも、そのどの要素も無視できないんですよね。数多いパーツをバキバキ弾いて乗り越えていく、超難度の障害物レース感。それがプログレのおもしろさだと思っているんです。

私は、あくまでもジャズがしたくて、自由に演奏できるスペースが欲しい。

そうすると、パーツを一つ抜いたら曲のキャラクターが薄まってしまう可能性のあるプログレは、ジャズとして換骨奪胎するには要素が多すぎて、ジャズ・アンサンブルの隙がなくなってしまうんですね。私自身がプログレも好きだから、あまりパーツを抜きたくないところもあるんです。

それを考えるとですね、ヘヴィメタルって要素は少ないので、ジャズとしてスペースを作る余地があるんです。

前の例で例えると、メタルは50の要素を1万の気合いと美意識で、馬鹿でかい声でめちゃ速く(且つ、内心は超丁寧に)演奏する感じでしょうか……。
(「プログレッシヴ・ロック曲のカヴァーについて考える」https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/21073

Machine Head

Machine Head

  • アーティスト:Deep Purple
  • 発売日: 1987/06/17
  • メディア: CD