本の味(藤原辰史)

藤原辰史「書物復権によせて」『書物復権』2、2020、p.2


「「しょもつ」と「しょくもつ」は似ている」ということで、


そして、そもそも、どちらにも味わいがある。これは比喩ではない。食べものは、甘い、辛い、苦い、などさまざまな味があるが、本を読んだあとも舌に何かが残っていいる気はする。つまり、読後感が食後感と似ているということがある。たとえば、私だけだと思うけれども、最近めっきり減ってしまった箱入りの本を読んだあとは、懐石料理の旨味に体が浸った後のような、少し疲れた舌の感覚がある。薄めの文庫本を読むと、近くの喫茶店でサンドイッチをかじったような気がする。ドストエフスキーは札幌ラーメンの濃厚な味噌とコーンとバターの味がするし、フーコークリーミーなフレンチのコースにデザートを食べた満腹感に襲われ、ドゥルーズはカラフルで新鮮で多種類の野菜のサラダの茎が喉に刺さるし、丸山眞男は、洋食屋でナイフとフォークでエビフライとハンバーグを食べた気持ちになり、夏目漱石藤田省三はざるそばを啜ったあとの喉越しが残る。
そういえば、「オムライス」を自称した政党もある。