ちょっと減速して「加速主義」

榎本*1「世界の果てまで「加速」せよ!――「加速主義」を読む」『書標』(ジュンク堂書店)494、pp.6-9、2020


「加速主義」とは;


(前略)そこでは根底的な社会変化を引き起こすために、資本主義制度、あるいはそれを歴史的に特徴づけてきた技術的プロセスを、あえて拡大し、再利用し、加速すべきであるとされる。まずいかもしれないけど、とにかく行くところまで行って進化させろ、だ。この概念の意味と用法はそれぞれの論者によって異なるが、主たる論者には、伝説のニック・ランド、「思弁的実在論」のレイ・ブラシエ、『資本主義リアリズム』の故マーク・フィッシャー、現在活躍中の左派ニック・スルニチェク、レザ・ネガレスタニといった現代思想のフィールドで活躍するスターたちが顔をそろえている。破滅を導くかもしれないその思想は、閉塞感に満ちた現代社会を打破するような不思議な力によって、私たちを否応なく変えてくれるのではないか、あるいは変えてしまうのではないか。(後略)(p.6)
「加速主義」については、何よりも、ニック・ランドの『暗黒啓蒙』の抄訳を含む『現代思想』2019年6月号(「特集*加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉」)を読めということなのだろけど(p.7)、ここで紹介されている「加速主義」関係の単行本は、


木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義――現代世界を覆う”ダーク”な思想』星海社新書
木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド――社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』イースト・プレス
マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』堀之内出版
ピーター・ティール『ゼロ・トゥ・ワン――君はゼロから何を生み出せるか』NHK出版
トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール――世界を手にした「反逆の起業家」の野望』飛鳥新社


ピーター・ティールはPayPalの創業者のひとり。スタンフォード在学中はルネ・ジラール*2の弟子だったが、現在はリバタリアンドナルド・トランプ支持者(pp.8-9)。「加速主義とオルタナ右翼*3リバタリアニズムとの親和性」(p.9)。
また、「加速主義とSF小説」ということで紹介されているのは、劉慈欣*4の『三体』と「現代社会の矛盾と絶望について、過去に愛した女性の記憶を交えて語る」ミシェル・ウエルベックの『セロトニン』(p.8)。『三体』については、「世界を守るのではなく、その先にあるのは絶望か希望かわからないけれど、宇宙人的な、類を破滅させるかもしれない生命体を受け入れるさまはまさに加速主義的だ」と述べられている。
「加速主義」の源流については、ドゥルーズガタリとかリオタールが言及されている(pp.6-7)。でも、再登場した未来派*5という感じも否定できない。
「加速主義」を巡っては、さらに詳しい紹介である


樋口恭介「【備忘】加速主義覚え書き」https://note.com/kyosukehiguchi/n/n766c5f0a0c2c


も。