或る無償労働

今野晴貴*1「倒産する有名子供服ブランドが“タダ働き”を強要? 会社の倒産に対処する方法を考える」https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20190708-00133303/


曰く、


「昨日まで普通に営業していたのに突然LINEで解雇の連絡。今月の給料も払えない。スタッフ任せでやれる店舗だけ営業してってどんな会社だよ!!!!」

 アパレル店員を名乗るアカウントがtwitterに投稿したこのようなツイートがインターネット上で話題になっている。

 ツイートでは社名は伏せられているが、全国に約100店舗を展開する子供服ブランド「motherways」を運営するマザウェイズ・ジャパン*2の破産申請に関係するものだと推測されている。

このユーザーによれば、会社が倒産するため解雇する旨を突然LINEで通知され、解雇日まではシフト通り出勤し、閉店セールに従事することを求められたという。しかも、その間の給与は支払えないとまで言われているようだ。

閉店セールが実施された店舗には、割引された商品を求めて客が殺到し、レジには長い行列ができた。店員たちは今後の生活に不安を抱えながらも、休憩も取れない辛い状況のなか、客への応対に徹しなければならなかったのだ。

「タダ働き」によって実現された「閉店セール」の収益の使途は?

経営が破綻しそうな会社は、取引への影響などを恐れ、できるだけその状況を隠そうとする。だから、働いている労働者がそれを見抜くのは難しい。上の事例のように、倒産直前に告げられるケースがほとんどなのだ。

しかし、倒産するほどまでに経営が悪化している場合、注意していれば、その兆候を察知することもできる。

例えば、給与の減額、手当や賞与の廃止、希望退職者の募集が行われている場合などは経営状態が悪い可能性が高い。賃金の支払いが遅れたら、かなり危険な状況だと思った方がよい。

 設備投資を控えていたり、資産を売却したりしているような場合も注意が必要だ。また、過剰な経費削減を求められる、督促状が届く、借入審査のためにメインバンク以外の銀行の視察が来る、社内の恒例行事が中止になるといった兆候も危険信号だといえる。

さて、「昨日まで普通に営業していたのに突然LINEで解雇の連絡」とはいっても、「マザウェイズ・ジャパン」の破産を報じる記事には、破産に至ったもっともらしい原因が言及されている;


「子ども服を展開するマザウェイズ・ジャパンが自己破産、負債総額は約73億円」https://www.fashionsnap.com/article/2019-07-02/motherways/
相川克彦「子ども服マザウェイズ・ジャパンが破産 負債総額は約70億円」https://www.wwdjapan.com/articles/893947


これらの記事を読む限り、店頭に直接立って・レジを打っている店員こそ、会社の危機に最初に気づいていた筈だとも推測できる。現場の店員に、売り上げががくんと減ったという実感が乏しいとすれば、破産の主要な原因は別なところにあると推測できるのでは?
ところで、今思ったのだけど、経済報道の難しさというのは、報道者が客観的な傍観者の立場に留まっていることができず、その反対に、ポジティヴにせよネガティヴにせよ、意図せずして、企業などの経済的アクターの命運にコミットしてしまうということだろう。例えば、「マザウェイズ・ジャパン」の危機にいち早く勘付いたジャーナリストがそれを報じたら、その帰結は、その破産を早めるということになるだろう。危機報道に反応した投資家や金融機関は資金を引き上げてしまうかも知れない。その後はずるずると破綻へと進んでいくだろう。所謂予言の自己成就*3。他方、見て見ぬふりをして報道しなければいいかと言えば、そうもいかない。今回のようにいきなり破産=解雇通告という事態を招いてしまうだろうし、危機が周知されることによって、危機に陥った企業を買収してくれる投資家や企業が見つかる可能性もある。