「扱いにくい国」(ナイポール)

VSナイポール*1『インド―傷ついた文明』(工藤昭雄訳)から抜書き。


インドはわたしにとって扱いにくい国である。私の故国ではないし、また故国ではありえない。にもかかわらず私はそれを拒絶することもできなければ無関心でもいられない。ただ観光を目的に旅行することなどわたしにはできない。わたしは接近しすぎていると同時に離れすぎている。わたしの先祖は百年前にガンジス川流域の平原から移住した。彼らや他の人びとが地球の裏側のトリニダードに築いたインド人社会、私が育った社会は、ガンディーが一八九三年に南アフリカで出会ったインド人社会よりもいっそう均質であり、インドからより孤立していた。
わたしが一九六二年にはじめて訪れたインドはまことに奇妙な国に思われた。百年の歳月はわたしから数多いインド人の宗教的態度をきれいに洗い流すのに十分だった。こうした宗教的態度なしにはインドの悲惨はほとんど耐えがたいものがあったし、また耐えがたいのである。インドの奇妙さと折り合い、わたしとこの国を距てているものを明確にするには長い時間が必要だった。わたし自身のように新大陸の遠い小さな社会の一員である人間の「インド人的」態度が、インドが今なおすべてである人びとの態度からどれほどずれているかを理解するために。(「序文」、pp.3-4)
さて、ナイポールが昨年8月に息を引き取っていることに今頃になって気づいた(汗);


Richard Lea “VS Naipaul, Nobel prize-winning British author, dies aged 85” https://www.theguardian.com/books/2018/aug/11/vs-naipaul-nobel-prize-winning-british-author-dies-aged-85
Kenneth Ramchand “VS Naipaul obituary” https://www.theguardian.com/books/2018/aug/12/vs-naipaul-obituary