鎌田東二*1「神道とは何か」『草思』(草思社)46、pp.6-13、2003
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)*2の、出雲大社について叙述した「杵築――日本最古の神社」というエッセイが引用・言及されて(pp.9-11)、
おそらく、この時代の外国人の中で、ラフカディオ・ハーンほど深くデリケートに、また肯定的に「神道」を感じ、理解し、評価した人は稀である。ハーンにそれが可能となったのは、彼がアイルランド人の父とギリシャ人の母を持ち、カリブ海のマルティニク島でジャーナリストとして活動したことなどの出自と経験があったからだと思う。ハーンはキリスト教以前の異教的な風土と世界にどっぷりと浸るという経験を持っていたのだ。このハーンの見解は、今なお、神道について、多くの戦後日本人がもっている先入見を払拭するだけの新鮮な着眼点と息吹に満ちている。
ラフカディオ・ハーンは、この出雲大社参拝時に舟で、遠く大山の山を望み見ながら宍道湖を渡り、この光の中に何か神々しいものが宿っていると感じとる。それを彼は「これが神道の感覚というものだろうか」と述懐している。それはハーンが神道の根柢にアニミズム的な感覚阿あることを深く察知した瞬間である。
思うのは、ケルトの地で育ち、日本の地で『怪談』を書いたハーンが今生きていたら、必ずや、宮崎駿の『となりのトトロ』*3や『千と千尋の神隠し』*4を見て大喜びするか、共作者に名を連ねていることだろうということである。実際、トトロは「森の主」であり、妖精や妖怪であり、アニミズム的「カミ」であった。『千と千尋の神隠し』には、そのトトロが八百万の神々の中の一神として神々の湯屋に赴く場面が描かれていた。宮崎駿のアニメには、ハーン的な意味での「神道の感覚」があますところなく描かれていると思う。それは宮沢賢治の『注文の多い料理店』にも通じる、日本のアニミズム的世界の描出である。(pp.11-12)
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ともあれ、日本人の神観念は、「チ・ヌシ・オニ・ミコト」などの語によって多様に表現されていて、「ホトケ(仏)」もそうした「神」の一神として理解され、受容されたのである。わたしはその日本人の神観念生成の歴史的過程を巨視的に、石器時代や縄文時代以来の長い間の「神神習合」という神々の習合過程があり、その一ブランチとして、六世紀以降に「神仏習合」が根づき、展開していったと考えている。ということは、「習合」という文化の形こそが神道の精髄であるということだ。したがって、それは、本居宣長や平田篤胤が考えたように、儒教や仏教伝来以前に純粋な古神道があるなどとは言えないと考える。それは認識論的な倒錯である。むしろ、ラディカルなほどに徹底的に習合的・クレオール的・ハイブリッド的・チャンプルー的な伝承体系が神道であり、日本文化であるとわたしは考えている。
かくして、日本という場所は、宮崎駿が描くところの世界宗教史における「神々の湯屋」のような地場であり、神道はその湯屋温泉の「地主」的存在なのである。(p.13)
*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20071031/1193848667 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080821/1219288458 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090428/1240932635 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130313/1363141131 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130320/1363717162 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20140626/1403801240 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180117/1516165144 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180124/1516771434 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180617/1529170865 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/30/175741 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/02/105759
*2:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060502/1146551271
*3:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081201/1228127995 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090215/1234633284 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140712/1405165610 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141023/1414075027 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141208/1418014587 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160629/1467167097 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170602/1496329664 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180923/1537668336 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/20/033029
*4:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130316/1363405417 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141201/1417448546 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161101/1478018802 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170217/1487307939 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/05/210810