フロイド*1「ブログ名を変更しました」https://www.byosoku100.com/entry/2018/05/25/112033
フロイド「ピンク・フロイドを知らない人に聴いてほしい曲5選」https://www.byosoku100.com/entry/2016/10/17/pinkfloyd1
けっこうの頻度で読んでいるblogなのだけど、『フロイドの狂気日記』というblog名の「フロイド」というのはピンク・フロイドの「フロイド」であり、「狂気」というのはフロイドのアルバムDark Side of the Moonの日本でのタイトル『狂気』に由来している。
- アーティスト:Pink Floyd
- 出版社/メーカー: Capitol
- 発売日: 1991/07/20
- メディア: CD
ところで、これを読んで、何故ピンク・フロイドがあれほどのビッグ・ネームだったのかというのは決して自明的なことではないなと改めて考えたのだった。先ず、フロイドというのは超絶的な演奏技術とか圧倒的なテンションで迫るバンドではなかった。デイヴ・ギルモアはギタリストとしては、たぶんロバート・フリップやスティーヴ・ハウ、或いはジミー・ペイジやリッチー・ブラックモアに及ばない。リック・ライトはキーボード奏者としては、キース・エマーソンやジョン・ロードに及ばない。ニック・メイソンはドラマーとしては、ビル・ブルーフォード(ブラッフォード)やジョン・ボーナムやカール・パーマーやフィル・コリンズに及ばない。まあ、ロジャー・ウォーターズはベーシストとして、ジョン=ポール・ジョーンズやロジャー・グローヴァ―やクリス・スクワイアに匹敵する存在だったと思うけれど。その一方で、ブライアン・イーノみたいに俺たちはノンミュージシャンだと開き直ることもできない。また、演奏に関して、例えば鬼気迫るとか、超絶的といった形容詞は、ピンク・フロイドではなく、キング・クリムゾンやイエスやエマーソン・レイク&パーマーのために使うべきものだったといえる。
じゃあ、フロイドの何処が凄かったのか? 先ずは、ヴィジュアルというかグラフィックが凄かったということがあるだろう。これはバンドというよりはヒプノシス*2というデザイン・ティームの功績だといえるのだけど。ただ、ヒプノシスがデザインしていたのはピンク・フロイドだけではなかった。それどころか、英国ということに限定すると*3、〈ヒプノシス基準〉というか、ヒプノシスがアルバムをデザインしているかどうかで、一流か否かが判断できるという雰囲気さえあった*4。ヒプノシスは1970年代のブリティッシュ・ロックそれ自体を視覚的に表現していたとも言える。その中でも、ピンク・フロイドとZEPのグラフィックは特にかっこよかった。アルバムWish You Were Hereの場合、LPレコードというメディアのあり方それ自体を使ったデザインで、多分CDというメディアでは再現不可能。日本の御家藝である紙ジャケット仕様でも無理。レコードは青いヴィニールでラッピングされていて、それを破って初めて、紙のジャケット、工場の敷地かなんかで握手するスーツを着た2人の燃える男たちの写真を中央に配置したジャケットが*5。アルバムのタイトルであり、その中の曲名でもあるWish You Were Hereというのは、旅行先から出す絵葉書に書き添える決まり文句。アルバムにはおまけとしてポストカードが1枚ついていた。静まりかえったような真っ青な湖の水上に足を上げた人間が土左衛門のように浮いている写真。
- アーティスト:ピンク・フロイド
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2000/07/12
- メディア: CD
さて、クラシックやジャズのしがらみの弱さがあったからこそ、ピンク・フロイドは音楽史的にも重要な或る飛躍が可能になったといえる*8。それは狭義の音楽の外への飛躍。楽器の音(楽音)からの飛躍である。所謂〈ミュージック・コンクレート〉への志向。ピンク・フロイドに言わせれば、ほかのミュージシャンがいくらアヴァンギャルドではちゃめちゃなことをやっていたとしても、所詮それは狭義の音楽というか楽音の範囲内でしょ、ということになる。実現はしなかったけれど、楽器を一切使わないアルバムも計画された。しかし、ピンク・フロイドを聴いたことのある人なら、楽器でも人の声(歌)でもない音がおまけ(たんなる効果音)以上の意味を有して聞こえてきたことに強い印象を持っている筈なのだ。「原子心母(Atom Heaert Mother)」のオートバイの音とか”Money”のレジスターの音とか。”Wish You Were Here”のラヂオをチューニングする音。この曲は偶々周波数が合ったラヂオ局から聞こえてきた歌という設定になっている。因みに、『壁』で使用されたヘリコプターの音はケイト・ブッシュの”Waking the Witch”という曲*9で借用されている*10。この飛躍を主導したのはロジャー・ウォーターズかも知れない。「原子心母」ではロン・ギーシンという現代音楽の作曲家*11がオーケストラの編曲を行なっているのだけれど、彼はロジャー・ウォーターズと共同で、The Body というTVドキュメンタリーのサウンドトラックを制作している。ここでは人間の身体が作り出す非音楽的な音がサンプリングされている*12。
- アーティスト:Pink Floyd
- 出版社/メーカー: Capitol
- 発売日: 1991/07/20
- メディア: CD
- アーティスト:Pink Floyd
- 出版社/メーカー: Capitol
- 発売日: 1999/10/20
- メディア: CD
The Hounds of Love (+6 Bonus Track)
- アーティスト:Kate Bush
- 出版社/メーカー: EMI
- 発売日: 1998/09/29
- メディア: CD
ヒプノシスによるグラフィックが凄かった
ブルースの濃度によって表現される〈哀愁〉が凄かった
狭義の音楽の外へという志向が凄かった
ということになる。
ピンク・フロイドを5曲お薦めすると*13、
“Atom Heart Mother”
“If”
“One of These Days”
“Money”
“Shine on You Crazy Diamond”
“If”はアルバム『原子心母』のB面に収められたロジャー・ウォーターズによるフォーク風の小曲。神経症的な歌詞も印象的*14。“One of These Days”はアルバム『お節介』オープニングの曲。歌詞はない。アブドラ・ザ・ブッチャーのテーマ曲。日本でのタイトルは「呼べよ嵐、吹けよ風」。“Shine on You Crazy Diamond”はアルバムWish You Were Hereのオープニングとエンディングに分割されているけれど、いちばんの聴き所はやはりエモーションがだだ漏れ気味のギルモアとリック・ライトの静謐との対比なのだろう。
Meddle (Remastered Discovery Edition)
- アーティスト:Pink Floyd
- 出版社/メーカー: Parlophone (Wea)
- 発売日: 2011/09/26
- メディア: CD
*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/11/135303 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/17/181637 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/13/005634
*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060610/1149962157 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20081007/1223349545 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20120113/1326478122 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130419/1366370207 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131116/1384624409
*3:パンク以降のニュー・ウェイヴは除く。また、独逸のスコーピオンズのアルバムもヒプノシスがデザインを担当していた。
*4:ディープ・パープル、キング・クリムゾン、ELP、ロクシー・ミュージックなどのアルバムはヒプノシスのデザインではなかった。みな一流ではあったけれど。また、クイーンも。
*5:愚劣な邦題『炎』というのは、多分この写真に由来する。
*6:「しがらみ」という言葉を早速使っちゃった。See https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/23/103655
*7:ローリング・ストーンズは除く。
*8:See https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080630/1214766175
*9:See eg. http://www.katebushencyclopedia.com/waking-the-witch
*10:ケイトはデイヴ・ギルモアの弟子である。
*11:http://www.rongeesin.com/ See eg. https://en.wikipedia.org/wiki/Ron_Geesin
*12:サントラのレコードは聴いているけれど、番組の方は視ていない。Wikipediaを見て、番組のナレーションをヴァネッサ・レッドグレイヴが務めていたことを知った。https://en.wikipedia.org/wiki/Music_from_The_Body
*13:シド・バレットがいた頃の曲は、神話時代として、別に語られるべきだろう。
*14:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20141010/1412907144