「脊椎損傷」、「両下肢麻痺」

その事故は4月11日に起こったようだ。
『ハフィントン・ポスト』の記事;


2018年04月12日 11時16分 JST | 更新 2018年05月07日 14時57分 JST
「仮面女子」猪狩ともかさん、「緊急手術中」と事務所発表 倒れてきた看板にあたりケガ
腰を骨折した疑い
ハフポスト日本版編集部


アイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかさん(26)が、都内で歩いていた際、倒れてきた看板にあたって怪我をした件。所属事務所は猪狩さんが「緊急手術中」だと公式サイトで公表した。事務所側も、手術中で本人と話ができていないため、これ以上の回答ができないという。

朝日新聞によると、猪狩さんは11日午後1時45分ごろ、東京都文京区の湯島聖堂で、倒れてきた木製案内板にぶつかった*1。病院に搬送され、腰を骨折した疑いがあるという。この日、都内では各地で強風が吹き、屋根が飛ぶなどの被害が出ていた。
(後略)
https://www.huffingtonpost.jp/2018/04/11/kamen-joshi-kanban-kega_a_23409198/

この時点では、あくまでも「緊急手術中」であり、「脊椎」を「損傷」し、両脚が動かなくなってしまうという帰結を予想した人はいなかったようだ。


徳重辰典*2「看板の下敷きとなった「仮面女子」猪狩ともかさん、脊髄損傷で車椅子生活に」https://www.buzzfeed.com/jp/tatsunoritokushige/kamen-igari


曰く、「4月11日、強風で倒れた看板の下敷きとなり、緊急入院していたアイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかさんが5月7日、公式ブログで病状を報告し、脊髄損傷により両脚を動かせなくなったことを明かした」*3


猪狩ともか「大切な皆さまへ」https://ameblo.jp/igari-tomoka/entry-12373913274.html


曰く、


私は歩くことはもちろん、自分の力で脚を動かすことすらできなくなってしまいました。



治る可能性は極めて低く、
今後、車椅子での生活を余儀なくされました。



体調・怪我は徐々に良くなり、今は自立した車椅子生活を送れるよう毎日リハビリに励んでいます。
退院は今から約3ヶ月後の予定です。

事故に遭うまでこの先ずっと普通に歩けると思っていたし、踊れると思っていました。
急に脚が自由に動かせない、自分のものじゃなくなったような感覚になると思ってもいませんでした。


でも不思議と
“仮面女子としての活動を辞める”
という考えに至ったことは1度もありませんでした。


今後どうしたいか考えたときに
“車椅子の猪狩ともか”としての活動を
自然と想像している自分がいました。
湯島聖堂*4のところは何回も行ったことがある。秋葉原お茶の水で仕事などをしている人なら、毎日その前を通っているよという人も少なくないだろう。何が言いたいのかといえば、誰でもが「猪狩ともか」になっていたかも知れなかったということだ。
さて、


乙武洋匡*5「障害者だってアイドルをあきらめなくていい」https://www.huffingtonpost.jp/hirotada-ototake/igari-tomoka-20180508_a_23429321/


「面識はありませんが、応援させていただきます!」*6と宣言している乙武氏はここで重要なことを書いていると思う。


だが、世の中には障害者になったことで何かをあきらめなければならなくなる人がゴマンといる。猪狩さんはたまたまアイドルという立場にいたことによって今回の人生の転機が多くの人に知られることになったが、彼女のような悲運に見舞われ、人生を大きく迂回することになる人が本当に多くいる。それまでの仕事を失ったり、それまでの住居に暮らすことが困難になったり、それまでの人間関係を維持することができなくなったり——。とにかく、障害者になると多くの「それまで」を手放すこととなってしまう。

 そうした事実を、私たち社会の成員はどのように受け止めたらいいのだろう。

「残念だったね」

「運が悪かったね」

「仕方ないよね」

 そんな気休めにもならない言葉で済ませてもいいものなのだろうか。しかし、残念ながら現実はそうなっている。どんなに嘆いても、憤っても、泣いたり叫んだりしても、障害者になった途端に多くのことを手放さなければならない社会が、厳然として、ここにある。

 猪狩さんの報道を機に、みなさんにも考えてほしい。そんな社会のままでいいのだろうか。くじ引きの中に「障害者」というハズレくじが存在し、それを引いてしまったら、「残念だけど、これまでの日常も夢も希望もすべてあきらめてください」と残酷な宣告を受ける社会でいいのだろうか。


障害者が、健常者とまったく同じように暮らせるようになるとは思っていない。だが、その間に存在する「できること」の差がなるべく小さい社会のほうが、私は豊かで美しいと感じている。それは建造物や制度や人々の意識を変えていくことで、いくらでも改善していくことができる。だが、こうした改善の必要性を叫ぶと、「障害者特権を振りかざしている」と非難を浴びるのが現状だ。

 特権とは、文字どおり「特定の人々に与えられる、他に優越した権利」のことだ。ふざけるな。何が特権だ。「できないこと」「あきらめなければならないこと」「唇を噛んで我慢しなければならないこと」を抱える人々が多くいる。彼らに少しでもそんな思いをさせない社会を目指すことを「特権」だと揶揄されたのではたまらない。そんなに羨ましいのなら、いますぐ障害者になって、その特権とやらを享受すればいい。

*1:本人の説明によると、「ぶつかった」というよりは看板の下敷きになった。

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160605/1465087889 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160914/1473877188 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161101/1478009976 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161109/1478709983 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170521/1495418716 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171113/1510579560 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171118/1510985751 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171223/1513993688 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180121/1516545031 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180426/1524703129

*3:See also https://twitter.com/igari_tomoka/status/993335184253571073 安藤健二「脊髄損傷の猪狩ともかさん、車椅子での芸能活動に意欲 「越えられない試練はない」」https://www.huffingtonpost.jp/2018/05/07/tomoka-igari_a_23428470/

*4:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120205/1328457876

*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060909/1157773946 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060912/1158074582 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160330/1459343463 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160331/1459390045 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160415/1460685137 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160603/1464884753 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160623/1466692840 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160916/1473989840 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170809/1502291499 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180203/1517673830 )http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180422/1524324795

*6:https://twitter.com/h_ototake/status/993349090661384192