「もうさらばぢや!」

アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)

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火垂(ほた)るの墓 [DVD]

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安達まみ「墜落するオセロー」『図書』(岩波書店)、826、2017、p.1


火垂るの墓*1にも関係あるか。


「尼崎が燃えているぞ」
少年は筵をもつ手を休め。尼崎と思しき方向を見た。空は、一面、赤い。撃たれて翼をもがれたアメリカの戦闘機*2B29が、火の粉を撒き散らしながら、空から降ってくる。ゆっくりと、スローモーションのように。
少年の名は、笹山隆。やがて戦後に再出発する日本シェイクスピア協会の中心人物のひとりとなる。当時、中学三年生だった彼は、空襲警報が鳴ると、教えられたとおり、竹やりを研ぎ、消火用の筵を水につけた。水を含んだ筵はひどく重かった。
終戦の年、六月に大阪大空襲があり、東洋一と謳われた軍需工場も、ほぼ全壊した。駅の付近だけでも何百人も死者がでたと聞く。
前夜、少年は坪内逍遥訳『オセロー』を読んでいた。悠然と落ちてくるB29の荘厳な美しさが、主人公の運命と重なる。
「おゝ、もうさらばぢや! 嘶く駒も、するどい喇叭も、(…)あの荘厳な大旗も、もうさらばじぢや! 名誉の戦争に附物のあらゆる特質、誉れも立派さも、もうさらばぢや!」
イヤゴーの舌の毒、みずからの嫉妬の炎に焼かれて、偉大な人間が堕ちていく……・。
坪内逍遥訳は読んだことがない。福田恆存。というか、私たちの世代というか戦後生まれの世代にとって、『オセロー』*3に限らず、シェイクスピア福田恆存中野好夫小田島雄志ということになる。
オセロー (新潮文庫)

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