石戸諭*1「こんなかっこいい「おじさん」がいたことを知っていますか?あの名監督が教えてくれたこと」https://www.buzzfeed.com/jp/satoruishido/itami-juzo
曰く、
どうにも「おじさん」が気になる。100万部を超えるベストセラーになっているマンガ『君たちはどう生きるか』も「おじさん」の物語だった。核になっているのは、主人公の少年コペル君とおじさんの関係性だ。コペル君の側で一緒に考え、新しい気づきを与える存在としての「おじさん」の存在感――。メンターとして位置付けたことがマンガ版の成功につながっている。
気になって「おじさん」を調べてみると、ある人物にたどり着いた。伊丹十三。
2017年、没後20年を迎えた映画監督にして、かつての名エッセイストである。昨年末に発売された、彼の単行本未収録のエッセイ集『ぼくの伯父さん』は増刷を重ねている。
なぜ、いま伊丹十三なのか。何かにつけ上から物を言って煙たがられる「オジさん」ではない、理想の「おじさん」像が見えてくる。
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まあ、垂直でも水平でもない斜めの関係ということだろうか。
若者を魅了した、一時代を代表するエッセイストとしての顔だ。伊丹さんにならって「おじさん」を定義しておこう。「ぼくのおじさん」と題された彼のエッセイから要点を抜粋すると……
親の価値観に風穴をあけてくれる存在。例えば親が「男なら泣くな」と言うなら、「人間誰でも悲しければ泣いていい」と少年に語りかけてくれる。
遊び人で、無責任。でも本をたくさん読んでいて、若い僕の心をわかってくれる。
おじさんと話した後は、世界が違った風に見えるようになる。
彼自身の存在がまさに、ここに書かれている「おじさん」だった。
松家仁之氏*4がインタヴューに答えている。私は松家氏と伊丹十三との関わりについては全然知らなかったのだが。
「その姿がなんとも魅力的だった」と語るのは名物編集者にして、小説家としても活躍する松家仁之さんだ。松家さんは新潮社時代に、伊丹さんのエッセイを文庫で復刊させ、『ぼくの伯父さん』の編集も担当した。
《僕にとっては後にも先にも、メンターは伊丹さん以外にいないんです。
初めてエッセイを読んだときのインパクトはとても大きかった。こんなエッセイ、読んだことないと。今回の編集を通して、その新鮮な驚きがよみがえりました。
伊丹さんという人は、あらゆる物事を自分の目で見て、自分の頭で考える人でした。
大抵の人は手っ取り早くどこかから仕入れた知識を、ずっと前から知っていたかのように語って、やがてそのことすら忘れてしまう。
伊丹さんは自分で消化するまで語らないというスタンスが徹底しています。検証する時間を厭わないんですよ。不器用なくらい検証に検証を重ねて、それから書いた。文章にするまでに相当な元手と時間をかけている。
例えばプレーンオムレツの作り方をエッセイに書いています。
その頃、家ではオムレツや卵焼き作りに凝りに凝って、納得するものができるまで、毎日息子さんたちに食べさせていた。卵焼きを食べすぎてニキビができてしまった、と次男の万平さんに聞きました(笑)。
伊丹さんの場合、勉強と実践が必ずセットになっているんです。単なる知識で終わらない。実践につながる「勉強のプロ」。それが伊丹さんでした。
ある時はヨーロッパ文化、ある時は精神分析、子育て、フランス料理、ハリウッド映画の文法……。あらゆることを勉強して、消化して、文章やテレビ番組、映画にして世の中に送り出した。こんな人は他にはいないですよ。》
そうか。伊丹十三の本が新潮文庫から出ていいるのが不思議だったのだ。松家氏が仕掛けたのね。でも、新潮文庫で伊丹十三というのは違和感がないといえば嘘になる。義弟の大江健三郎じゃないんだからさ。というか、伊丹十三の本といえば文春文庫だろうという固定されたイメージがあるのだ。『ヨーロッパ退屈日記』にしても『女たちよ!』にしても『小説より奇なり』にせよ。まあ、初めて買った伊丹十三の本というのは実は中公文庫の『問いつめられたパパとママの本』だったのだけど*5。
《伊丹さんの文章を読むと、「答えを簡単に出すな。もっと調べたほうがいい。もっと考えなさい」って言われているような気持ちになります。人は「知らないこと」からこそ学ぶことができるんだと、伊丹さんは全力で示してくれた。しかし専門家にはならない。そんな存在だったと思うのです。
権威主義にならず、考えている自分の背中は惜しみなく見せてしまう。そして、その姿勢がとにかく面白い。やっぱり、理想の「おじさん」なんですよね。》
それは巷にあふれるお手軽に成功方法を語ったり、勢いのいい言説を振り撒いたりする「自己啓発本」とは一線を画す、人生論だと言える。
簡単に答えがでる人生よりも、全力で考える人生を軽やかに、楽しそうに生きた伊丹十三は、今という時代にこそ必要な「おじさん」なのだ。伊丹さんにならって、堂々と断言してみたい。
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*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160122/1453481204 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160127/1453866712 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160325/1458875216 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160409/1460163099 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160415/1460648516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160526/1464228316 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160603/1464959516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161105/1478309427 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161211/1481482837 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170103/1483467085 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170516/1494962934 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171108/1510149623 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171111/1510404872 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171113/1510590081 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171222/1513915420 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180206/1517935255 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180226/1519612385 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180301/1519907714
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070130/1170170762 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080912/1221241060 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090120/1232436129 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101126/1290795234 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110814/1313322168 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111223/1324582744 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130415/1366001209 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140726/1406364098 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140726/1406364098 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141226/1419566569 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150105/1420473043 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150219/1424362020 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151125/1448386664 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160416/1460821073 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161228/1482944460
*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070130/1170170762
*4:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110305/1299293785
*5:現在出ている新版と違い、カヴァーは矢吹伸彦のイラストレーションだった。