最高裁判所の二面性

現代法社会学入門 (現代法双書)

現代法社会学入門 (現代法双書)

丸田隆「裁判官の選出と司法参加」in 棚橋孝雄編『現代法社会学入門』法律文化社、1994、pp.158-181


最高裁判所のふたつの顔」という項に曰く、


日本国憲法では裁判官は「良心と憲法のみに拘束されて」裁判を行う(憲法四八条三項)とあるが、現実には、自らの判断は極力抑えらえるようになっている。
最高裁判所は、裁判の最終裁判所(憲法八一条)であるが、同時に裁判所組織の統括的行政主体としての顔を持つ行政組織体でもある(憲法七七条一項、裁判所法四〇条一項)。最高裁は、裁判官の任用だけでなく、事務総局を通じて裁判官の人事をコントロールしている。(p.169)

裁判官の個別評価は、配属している裁判所の裁判所長、およびその管轄の高裁所長のふたつのルートから最高裁事務総局に送られる。この評価システムを、考課という。この効果調書は、裁判官としての執務能力、つまり事件処理能力、(正確性、速度、法廷処理)、指導能力(職員に対しての、部の総轄者としての)、法律知識、教養、健康状態、人物評価の特徴および総合判定となっている(宮本 1979: 125)*1
裁判官社会も、先輩・後輩・上司・部下の日本的なタテ的人間関係とは無縁でないこと(特に、研修所の何期であるかということを非常に気にする)、自己の所属する合議部の裁判長が、部長としてこのような評価を人事権者に送っているとすれば、憲法四八条三項がどのように裁判官の独立をうたおうと、自分の考えを押し直すことは大変なことだと思われる。こうして、裁判官は、部長(地裁の部総括、つまり裁判長)に遠慮することになるし、裁判所の合議部は、部長をトップとする研修所の期別の縦的ハイアラーキカルな構造となる。(pp.169-170)
「裁判所としての最高裁」という項に曰く、

最高裁は、三権の一部として、他の二権である行政や立法の権限踰越を抑制し、憲法の原理を守ることを使命とする。そのため、憲法は、最高裁違憲立法審査権を明文(憲法八一条)で記している。しかし、最高裁は、他の二権に対して憲法原理を明確にして対峙するよりも、下級裁判所の一枚岩的統制に力を注いできたように思える。下級裁判所に対する監督官庁的な色彩が、裁判官の人事統制を通して強力になってきたため、下級裁判所の裁判判決まで指導しようとする傾向がみられる。それはどんなふうに行われるか。(pp.170-171)
それは「判検交流」(pp.171-172)、「裁判官合同・協議会」(pp.172-173)を通じて。
最高裁を頂点とする戦後(日本国憲法下)の司法制度については、David M. O'Brien To Dream of Dreams*2、p.65ffも参照のこと。
To Dream of Dreams: Religious Freedom and Constitutional Politics in Postwar Japan

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