吉田司家の話

武内新吉『島の息づかい――天草民俗誌』(葦書房、1986)という本*1に、天草郡大矢野町の「登立天満宮」の秋祭りでの「相撲の奉納」(「宮相撲」)の話が出ている(p.202ff.)。「宮相撲」では宮司ではなく「行司」が祝詞をあげるのだという。その「行司」として紹介されている広田清信という方は「大正九年熊本市吉田司家に入門。「式守」の名字をもら」ったという。「吉田司家*2角力の家元として江戸時代以来君臨してきたが、所謂大相撲だけでなく、「宮相撲」などの「行司」も統括していたわけだ。また、「吉田司家相撲八段の免許を持つ」西山勇さんという人もこの本には出てくる。実は、吉田司家が、剣道や柔道などのほかの武道、囲碁や将棋などと同様に、「相撲」の段位を発行していたことも知らなかった。

島の息づかい―天草民俗誌

島の息づかい―天草民俗誌

ところで、この本が上梓された1986年というのは、吉田司家にとっては非常に重要な年だった。Wikipediaに曰く、

1986年(昭和61年)5月、借金問題など司家の経営上の不祥事により、25世吉田長孝と春日野理事長(当時)との会談で、横綱授与の儀式を全面的に協会へと委ね、当面は協会との関係を中断する旨を双方了解した。なお、1983年(昭和58年)7月に推挙の第59代横綱隆の里俊英までは司家も推挙式に臨席し、毎年十一月場所後に司家の土俵での奉納土俵入りが行われていたが、関係中断によって1986年7月に推挙の第60代横綱双羽黒光司以降、司家は推挙式には臨席せず、司家土俵での土俵入りも事実上の廃止となり、行われなくなった。これに伴い、司家が学生横綱に絹手綱を授与する儀礼も、事実上廃止されている。

かつて司家の屋敷は熊本市北千反畑町(中央区)の藤崎八旛宮参道脇にあり、土地約1000平方メートルの敷地に吉田追風の住宅、天照大神住吉大神・戸隠大神の三神(十三代吉田追風が相撲関係者の崇拝神として定めたという「相撲三神」)を奉斎した神殿、吉田司家宝物館、土俵など建物計約200平方メートルがあったが、2005年(平成17年)2月に土地・建物が熊本地方裁判所にて競売にかけられ、穴吹工務店高松市)に約2億円で売却された。建物はすべて取り壊され、跡地には同社のマンションが建設された。参道に面したマンション敷地内に「吉田司家跡」の石碑が存在する。宝物館には多数の相撲関係資料や美術品等が所蔵されていたが、その行方について日本相撲協会は「現在どうなっているか、まったく分からない」と述べている。

その後も25世吉田長孝は相撲界への復帰と司家の権威の回復を目指して支援者らとともに活動しており、2015年には阿蘇市阿蘇内牧温泉に新たな拠点を置く計画を公表、同年4月、阿蘇市小里において「相撲三神」の神霊を熊本市から移す「仮殿遷座祭」を挙行した。司家は今後本殿や土俵を建設して相撲文化の拠点となる施設を設け、相撲大会の開催や相撲を通じた地域おこし、更に横綱奉納土俵入りなどかつての司家の儀礼を復活させる構想を示している。「仮殿遷座 祭」には松野頼久衆議院議員、佐藤義興阿蘇市長、郄島和男熊本県議会議員ら政界関係者も出席し、司家再興への支援の意向を表明したものの、こうした司家・熊本県関係者側の動きに対し日本相撲協会は全く反応していない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E7%94%B0%E5%8F%B8%E5%AE%B6

横綱はここから生まれた。熊本にて800年続いた相撲の神様・吉田司家、お家取り潰しの顛末。」という記事*3に曰く、

歴代の横綱横綱吉田司家詣でをして、吉田司家より任命を受けていました。 ところが1980年代、24世吉田長善が野球賭博で借金をつくり、経営悪化の末、代々伝わる相撲関係のお宝のすべてが、借金のかたとして流失することになってしまいます。その際に暗躍していたのが「日本財界のフィクサー」といわれた許永中

吉田司家が所有していた多数の相撲関係資料や美術品の行方について、ウィキペディアでは


日本相撲協会は「現在どうなっているか、まったく分からない」と述べている
となっていますが、さすがの許永中も相撲関係のお宝は売り捌くことができず、某宗教団体の倉庫に預けられたまま・・・。
ここでの直接の引用などはしないけれど、この後、吉田司家再興に纏わる胡散臭くて面白い話が続いている。
なお、吉田司家再興を正面から掲げている団体として、「NPO法人熊本相撲文化研究会」というのがあるようだ*4

*1:著者の武内新吉氏は読売新聞記者だった人。この本の原形も『読売新聞』に連載された。

*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070202/1170416965

*3:http://koukoku-ya.com/yoshidatukassa-ke/

*4:https://sumo-ken.org/