- 作者: 鶴見俊輔
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2008/01/11
- メディア: 文庫
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鶴見俊輔『期待と回想』*1の「きせる学問――まえがきにかえて」から。
他人のはなしをきけなくなって自分のはなしばかりする老人は、こまる。他人の作品を読むことができなくなった老人もこまる。(p.8)
私の側からの物語りは、自分の感情の系列にそうてはなす場合には主観をそのまま出すことになり、学問についてはなす場合には私の外にある実在との関係でテストできる側面をもっているが、そのどちらの場合にも、物語りであるという点では一つのものであり、両者は耄碌による単純化をとおして合流しているように、読者としての私には見える。回想が自分の思いこみによって色づけられている傾向がつよくあるのは、私が偽学者であることによる。正統の学問に接触したのは私にとっては大学に在籍していた二年半にすぎず、そのまえも、そのあとも、自分なりの学問をつみかさねてきた。独学の奇兵隊ふうの迷走のあいだに、わずかの期間の正規兵ふうの訓練が、キセル乗車のようにはさまれている。それを聞き手*2はよりひろい場にひきだそうと努力しているが、聞き手の遠慮と節度とが私のかたくなさをうちくだくことに成功しているのか、私の自己批評の力をこえる問題がのこる。(pp.9-10)
*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150724/1437712146